Loading...

経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

書評詳細0

老舗企業 長寿の秘訣は「変化への柔軟な対応」――帝国バンク史料館・産業調査部編『百年続く企業の条件』朝日新書 ほか

企業の〝寿命30年説〟がある。シャープは今年、創業100周年を迎えたが、巨額の赤字を抱え、窮地に立たされている。〝長寿〟の故だろうか。

帝国データバンク史料館・産業調査部編『百年続く企業の条件』によると、日本は100年以上続く老舗が2万社を数える。日本経済新聞社編『200年企業』によれば、倍の200年以上続く老舗は、約6分の1の3500社に減るというが、大変な「老舗大国」に変わりはない。

両書が取り上げる企業の多くは、和菓子の製造販売や酒造業を営む個人商店、地域密着型の小売業などの中小企業だ。しかし、侮ってはいけない。

老舗というと、伝統を重んじて変化とは無縁と思われがちだが、『百年続く企業の条件』によると、生き残りの条件の1位が「信頼性の維持、向上」なのは当然として、2位が「進取の気性」と聞くと、いかに経営において革新が大事かを考えさせられる。

『200年企業』は、章立てにあるように、「選択と集中」、「コーポレートガバナンスの強化」、「コア・コンピタンス経営」、「従業員重視」、「実力主義人事」など、マネジメントの側面から老舗企業を論じているのが特徴だ。老舗企業とはいえ、今日的な経営課題に真正面から取り組んできたからこそ、長寿を保っていると、創業者のエピソードを交えながら説いている。

資生堂の創業は、1872(明治5)年である。戸矢理衣奈著『銀座と資生堂 日本を「モダーン」にした会社』は、日本初の洋風調剤薬局として出発した資生堂の歴史を、初代社長の福原信三と銀座とのかかわりに注目しながら、環境変化への対応を含めて論及している。

著者は、都市を闊歩する新時代の女性像「銀座ガール」を例に、戦前からの巧みな広告・宣伝、デザインを重視する同社の経営姿勢に触れている。その特徴を「西洋風ライフスタイルの総合的な流行発信地」と分析し、先進性に言及する。

先進性といえば、逆境下にあるシャープは、国産第1号のテレビを量産、世界初の液晶表示電卓を開発、電子手帳「ザウルス」を発売など、斬新な製品を市場に送り出してきた。そればかりか、一時、太陽電池は世界のトップシェアを誇った。ところが、シャープに限らず、日本の電機メーカーはいまや、アナログからデジタルへの大転換期に直面し、悪戦苦闘しているのが現状だ。

もとより、町の老舗企業とシャープのような電機メーカーをひとくくりに論じることはできないが、100年、200年と続いている企業の多くは、変化に柔軟に対応してきたからこそ、時代の波にのまれずに生き続けてきたといえる。

考えてみれば、日本が近代化の歩を始めた明治維新から144年が経過する。シャープのみならず、日立、東芝など、日本の産業を支える創業100年以上の大企業は、少なからず存在する。シャープだけが〝寿命〟が尽きたとは考えられない。老舗企業の原点に返るべきだろう。

帝国データバンク史料館・産業調査部編『百年続く企業の条件』朝日新書
日本経済新聞社編『200年企業』日経ビジネス人文庫
戸矢理衣奈著『銀座と資生堂 日本を「モダーン」にした会社』新潮選書
『週刊エコノミスト』(2012年10月23日号掲載)

 

ページトップへ