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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

サントリーの社長人事に見る人材育成の失敗

かねてから、私は日本にプロの経営者がいないと嘆いてきました。
それだけに、サントリーの今回のトップ人事が成功することを祈りますが、
コトはそう簡単ではないでしょうな。

サントリーホールディングスは、ローソン会長の新浪剛史氏を、
次期社長として迎えることを決めました。
創業以来、世襲経営を続けてきたサントリーが、
創業家出身者以外をトップに就けるのは初めてです。
しかも、生え抜きではなく、外部から。
ずいぶん思い切ったトップ人事ですね。

グローバル企業になるためには、「脱世襲」が必要という話もありますが、
私は、必ずしも世襲企業に否定的ではありません。
世襲企業は、創業家の求心力が強いですし、
危機や重要な場面で、スピーディーな決断を下すことができます。
だから、むしろ、世襲企業ほどグローバル競争に生き残るとすらいえます。
サントリーの場合、現社長の佐治敬三氏の後継者と見られていた、
創業者の曾孫にあたる鳥井信宏氏は、現在48歳で、
サントリー食品インターナショナルの社長を務めています。
新浪氏をワンポイントのレリーフとして、
トヨタのように、再び創業家にトップが戻る可能性は、十分にあります。
いや、そういえるでしょう。

それにしても、外部から社長を招く人事には、リスクが伴います。
まず、社員の間に愛社精神が薄れます。
なぜ生え抜きではなく、まったく違う業界からトップを招くのか。
個人主義の企業風土の強い米国ならばわかりますが、
忠誠心が強い日本企業では、社員の心が会社から離れてしまいかねないと思います。

むろん、成功例はあります。
09年に、ジョンソン・エンド・ジョンソンから
カルビーに招聘された松本晃氏や、
11年に、GEからLIXILのトップに就いた
藤森義明氏がそうだと思いますが、
むしろ、これら成功例は稀有な例といってもいいでしょう。

実際、外部からトップを招いて、うまくいかない企業の例は多い。
最近では、武田薬品工業にクリストフ・ウェーバー氏が招かれ、
今月中に社長に就任予定ですが、外国人トップということもあり、
社内には戸惑いがありますね。

今年4月に日本コカ・コーラから招かれて資生堂の社長となった
魚谷雅彦氏の場合は、まだ結論は出せませんね。
会社の危機ということもあって、受け止め方は、
多分、サントリーとは比較できないでしょう。
それでも、雑音は聞こえますからね。

世襲企業に、いきなり外部から“プロの経営者”を招けば、
組織にとって、大きな刺激にはなるでしょう。
サントリーが外部からトップをもってきたのは、
佐治氏が社内に危機感が不足していると感じたからでしょうか。
それにしても、現状、経営が危ないというわけでもありませんから、
強い刺激を与える人事には、逆にリスクもあるわけですよ。

サントリーの経営陣は、当然、そうしたことはわかったうえのこととは思います。
とはいえ、少なくとも佐治氏は、新浪氏を招いた背景を、
社内に対して、きちんと説明すべきでしょうね。
今日の各紙夕刊によると、佐治氏は、外部から招くのは、
「“グローバル対応”だ」と説明しているようです。

サントリーは、米国のビーム社を超大型買収し、
グローバル展開を加速しています。
ところが、社内に適した人材がいないと。
要するに、グローバル人材が育っていないということでしょうね。
新浪氏は、三菱商事出身で、ローソンでは海外展開を推進しました。
グローバル感覚があり、国際的な人脈ももっていますからね。

考えてみるに、これは、サントリーに限ったことではありませんが、
外から経営者を招かざるを得なかった背景には、
人材育成の失敗があるのではないでしょうか。
社内に、経営者の候補となる人材を、
体系的に育成するシステムができていなかったのではないか。
とくに、グローバル人材が育っていない。
まあ、トップ人材、グローバル人材に限らず、
日本企業は「失われた20年」の間に、人材育成を徹底的にネグってきました。
いま、そのツケがきているんですよ。

それから、あえていえば、後継者の育成は、経営者の最大の任務ですよね。
これを怠れば、企業の存続は、揺らぎかねません。
これまた、サントリーに限らず、すべての企業にいえることですが、
いま一度、次世代経営者育成の在り方を、
見直してみる必要があるのではないでしょうかね。
今回のサントリーのサプライズ人事を聞き、そんなふうに思いました。

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