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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

なぜ、日本のエレベーターはスゴイのか

8月24日付の日経新聞に、
三菱電機、日立、東芝の総合電機大手3社のエレベーターが、
高速性、安全性、快適性を武器として、
中国の超高層ビルやマンションに相次いで納入されている、
という記事がありました。

日本製エレベーターについては、
一度、当ブログでも取り上げたことがありますが
(「片山修のずだぶくろⅠ」4月22日分)、
今回は、少し違った角度から考えてみたいと思います。

以前も書いたように、
日本製エレベーターの強みは、高度な制御技術にあります。
ひとことでいえば、エレベーターのカゴをなめらかに加速・減速し、
各フロアにわずか数mm単位の誤差で、ピタっと止める技術ですな。
台湾の「台北101」に納入された東芝のエレベーターが、
床面に立てた500円玉を倒すことなく、
時速約60kmで昇降できるという話は有名ですよね。
では、その制御技術の秘密はどこにあるのか。
2つの背景が考えられると思います。

1つは、重電機メーカーの「総合力」です。
詳しくは、拙著『東京スカイツリー―六三四に挑む』(小学館刊)に書きましたが、
東芝のエレベーターの巻き上げ機の
モーターの設計、開発、製造を担当するのは、
電気機関車の回転機をつくる交通部門です。
防音・防振対策については、
電気機関車や新幹線、原子力発電所、水処理施設、パルプ工場などの、
社会インフラ系の施設で使用される最先端の制御技術が駆使されています。

また、24日付の日経新聞で指摘されているように、
日立は、鉄道車両の技術を応用し、空気抵抗の少ない、
カプセル型のカゴを設計しました。
三菱電機は、フロッピーディスクドライブ用モーターを参考にして、
カゴの巻き上げ機を開発しています。
つまり、エレベーターは機構としてはそれほど大きなものではありませんが、
各分野で培われた最先端技術が凝縮された、超ハイテク空間なんですね。

総合電機メーカーは“重い、遅い”と揶揄され、
カーブアウトによるスリム化の必要性が指摘されることが少なくありません。
その通りといえる側面があるのは確かですが、
一体感を醸成し、シナジーを実現すれば、
無類の強みを発揮できるのも間違いない。
エレベーターはその好例といえるでしょうな。

さて、もう一つの背景としてあげられるのは、
日本の制御技術の伝統の厚みです。
しばしば指摘されることですが、日本の制御技術の原点は、
江戸時代に発達した「からくり」にあります。

「からくり人形」は、一つのゼンマイによって得られた動力を、
歯車やカム、糸、棒テンプなどの機構によって伝達し、
人形の動きを自動的かつ、極めて精妙に制御します。
客の前でピタリと止まる「茶運び人形」の正確な動き。
「寿」「松」「竹」「梅」などの文字を毛筆で書く、
「文字書き人形」の精妙な筆づかい。ほれぼれしますよね。
センサーやコンピュータによる制御こそありませんが、
ここに日本の制御技術の源を見出すのは難しくないでしょうね。

ちなみに、東芝の創業者、田中久重(1799-1881)は、
“からくり儀右衛門”と呼ばれ、
水力や重力、空気圧など、さまざまな力を利用した、
からくりの新しい仕掛けを次々と生み出しました。
久重は、和時計の最高傑作「万年時計」や蒸気機関のひな形、
電話機の試作品などを生み出した天才発明家ですが、
その基盤にからくり技術があったのは、想像に難くありませんよね。
こうした制御技術の伝統が、今日の日本のエンジニアたちにもDNAとして、
受け継がれているのではないか……というのが、私の見立てです。

つまり、ローマは一日にして成らず、ですよね。
日本の“技術大国”も、一朝一夕にできたのではないということですよね。

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