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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

ネットが銚子電鉄を救う

10月11日の日経新聞 千葉版に、
「銚子電鉄の車両修理代 300万円ネット小口調達」という記事が載っていました。
千葉県銚子市の銚子~外川間の約6・4kmを結ぶ
ローカル私鉄「銚子電気鉄道」の話です。

まあ、銚子電鉄といえば、一般的には「ぬれ煎餅」でしょうな。
銚子電鉄は、沿線人口が少ないことから、
長年にわたり、慢性的な経営難に悩まされてきた。
2006年にはついに、会社の不祥事のあおりを受けて、
車両の法定検査を受けることすらできなくなった。

こうしたなかで登場したのが、
ちょっと旧聞に属しますが、「ぬれ煎餅」でしたよね。
「電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです」。
印象的なフレーズをウェブサイトに掲載し、
副業で製造販売していた「ぬれ煎餅」の購入を呼び掛けると、
銚子鉄道は一躍、全国的な知名度を獲得し、見事、経営危機を乗り切りました。
ネットの力を生かした復活劇は、知る人ぞ知る話ですわね。

私は、2008年2月に銚子電鉄を取材したことがあります。
鉄道博物館に収蔵されていてもおかしくないようなレトロな車両に乗って、
キャベツ畑が広がるのどかな風景のなかをゴトンゴトンと揺られていると、
まあ、じつに長閑な風景でしたな。

また、犬吠埼駅では、「ぬれ煎餅」の手焼きに挑戦しました。
挑戦といっても、コンロの上の金網で煎餅を焼き、
しょうゆをつけただけですが、つくりたての煎餅は香ばしく、
それは素朴で、懐かしい味で、いまもその光景を思い出します。

銚子電鉄にしてみれば、すき好んで、
レトロ列車を運行しているわけではないでしょう。
お金があれば、より安全で快適な車両を購入したいのは当然ですよね。
また、「ぬれ煎餅」が窮余の一策だったのは間違いない。
絶体絶命のピンチに追い込まれたときに、知恵を絞って弱みを強みに変える。
なんでもないものを魅力ある観光資源に仕立て上げる。
使える手段はなんでも使って、「地域の足」を守る。
ローカル路線ならではの知恵ですね。

さて、ここからが今日の本題です。
じつは、14年1月、銚子電鉄に再びとんでもない試練が訪れました。
上り電車(2両編成)が脱線事故を起こしたのです。
報道によると、幸いけが人は出ませんでしたが、
1両目の後輪と2両目の前輪が、
レールから最大約1メートル外れていたといいます。
復旧までに2週間を要したあげく、
脱線した2両の車両は、車輪交換などの修理を行わなければ、
走らせることができない状態になってしまった。

車両の修理費は、1000万円以上。
ただでさえ汲々としている銚子電鉄にとっては重すぎる負担です。
いかにして、この試練を乗り越えたのか。

「走れなくなった電車を、もう一度走らせたい」。
そういって立ち上がったのは、
千葉県立銚子商業高校の商業科、情報処理科に通う、
地元の高校3年生10人のチームでした。
彼らは、課題研究授業の一環として、「クラウドファウンディング」を利用して、
脱線した車両の修理費の一部を集めることにしたんですね。

「クラウドファウンディング」は、
ソーシャルメディアや仲介専門のウェブサイトなどで、
企画内容や必要な金額を提示し、
不特定多数の人々に対して支援を呼びかける手法です。
東日本大震災の復興支援事業の際、
新たな資金調達手法として注目を集めましたよね。

高校生たちは、銚子電鉄の社員と相談し、修理代の全額を集めるのは無理と判断。
実行可能な金額として300万円を目標に据えました。
支援者の寄付金額については、3000円から30万円までの
6種類の金額から選べるように設定しました。
また、支援者には寄付金額に応じて、高校生の心を込めたお礼状、
銚子電鉄の一日乗車券、オリジナルつり革広告、
オリジナルヘッドプレートデザイン権、1往復の車両貸切権といった
特典を配布することにしました。

こうした仕組みをつくり、8月29日、クラウドファンディングを扱う
インターネットサイト「READYFOR?」で呼びかけたところ、
出資金は2週間で100万円を突破。
そして、10月6日、目標金額300万円を
スタートから40日足らずで達成したというわけです。
「ぬれ煎餅」に続く、知恵の勝利といっていいでしょう。

もっとも、クールになって考えてみると
車両の修理費の一部を寄付によって賄ったところで、
銚子電鉄が経営難を脱却したわけではありません。
鉄道車両のメンテナンス費用はバカになりません。レトロ車両であればなおさらです。
赤字が続く限り、設備投資に振り向ける費用が足りなくなって、
事故の再発を防ぎきれないのではないか……こうした懸念があるのはわかります。

でも、銚子の高校生たちの取り組みは、
これからの地方にとって大きな意味を持っていると思います。
「カネがないなら、知恵を出せ!」ではありませんが、
アイディア一つで、地方の現状を打破する可能性を感じさせてくれるからです。
人間、追い込まれれば追い込まれるほど、知恵がでてくるものです。
地方はなかなかシブトイですよね。
ガンバレ銚子電鉄です。

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