Loading...

経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

地方創生へ和歌山大学のチャレンジ

地方創生のカギは、意外にも、大学が握っているのかもしれません。
今日は、11月13日付の日経新聞に「観光は学問 地方で究める」
という見出しで掲載されていた、
和歌山大学(和歌山市)の話をちょっと論じてみます。

和歌山大学は、観光学の教育・研究体制の
強化に向けた取り組みを進めています。
教育体制については、今年4月、博士課程を新設し、
学部から修士、博士まで一貫して観光学を学ぶことができる
日本で唯一の国立大学となりました。
記事によると、今年は、6人の定員に対して約20人の応募があり、
豪州、韓国出身者、テーマパーク職員を含む9人が入学したそうです。
まあ、学生や研究者の注目度はかなり高いといっていいでしょうね。

また、研究体制の強化については、
2016年、国際研究拠点「国際観光学センター(仮称)」を新設し、
世界の“研究ハブ(拠点)”を目ざす方針といいます。
具体的には、英国や豪州から世界的な研究者を5人招聘するほか、
和歌山大学の他学部の教員が研究員を兼務することで、
総勢35人の研究体制を整える。
さらに、観光学の分野で世界のトップランナーを走る、
英国サリー大学や豪州クイーンズランド大学と連携しながら、
日本や東アジアの研究を中心とする、
国際的な研究拠点をつくる計画です。

これまで、日本における世界トップレベルの研究拠点は、
東大のカブリ数物連携宇宙研究機構や
京大の物質—細胞統合システム拠点、
阪大の免疫学フロンティアセンター、
東北大の原子分子材料科学高等研究機構など、
大都市の大学が中心的な役割を果たしてきました。
この点、観光学という比較的新しい研究分野とはいえ、
地方から一気に世界トップを目指す、
和歌山大学の取り組みは注目に値しますわね。

ただ、それよりなにより、和歌山大学の挑戦は、
これからの地域を考えるうえで、
重要な意味を持っているのではないかと思います。

今日、本格的な人口減少に直面している地方が少なくありませんが、
その一因として、最近、その傾向は鈍っているとはいえ、
多くの若者が高校卒業と同時に、
大都市圏の大学に吸収されてしまうことがあります。
人口流出に歯止めをかけるには、地方大学を強化して、
地元学生の地域内進学を促進することが欠かせませんね。

現に、全国知事会(会長:山田啓二京都府知事)は、
今年10月に発表した「地域創生への提言」において、
地元大学に入学した際の授業料減免、
地元企業に就職した際の奨学金返還免除といったプランを提案しています。
ただ、まあ、国や自治体が補助金制度を整備することも大切だと思いますが、
いくら安くても、魅力のない教育サービスはいりませんからね。
地域内進学を促進するには、和歌山大学のように、大学が自ら率先して、
魅力アップに向けた取り組みを進めるのが先決でしょうな。

それにしても、世界トップレベルの研究拠点をつくることは、
地域の観光産業に大きなインパクトを与えるのは間違いないでしょう。
というのは、研究拠点が設置されれば、
国際学会の大会や、国際機関の総会などが開催される機会が増えますわね。
いわゆるMICEの“C(コンベンション)”の話ですが、
学会や会議の開催は、地域に対して大きな経済波及効果をもたらします。
宿泊業や飲食業、土産物業など、きわめて裾野が広いのに加え、
MICEの参加者の滞在時間は、一般的な観光客よりも長いといわれます。
つまり、地方大学を中心に、観光によって地域活性化を進める可能性も
十分に考えられるということですよ。

地方大学が、エリア一でも日本一でもなく、一気に世界一を目ざす。
ここに地域創生の秘訣というか、面白さがあるのではないでしょうかね。

ページトップへ