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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

個性派エンジニアが日本を救う

今日は、11月26日付の日経新聞で
“格安スマホ”の仕掛け人として紹介されていた、
香港・ジェネシスホールディングス代表取締役社長の
藤岡淳一さんのことについて書きます。

藤岡さんが注目を集めるきっかけになったのは、
今年7月、イオンが月額1980円で発売した格安スマホです。
分割払いの端末代金と音声通話の基本料金、
それから3Gデータ通信料金をすべて合わせてこの金額です。
ドコモ、au、ソフトバンクなど大手キャリアの
スマホの基本料金は7千円前後ですから、まあ、度肝を抜かれましたよね。

じつは、この価格設定を可能にしたのが、
藤岡さん率いるジェネシスホールディングスの
低価格SIMフリースマホ「FXC-5A」でした。
「FXC-5A」は、一括で購入すると1万5120円。
iPhone6のなかで一番安い16GBの製品が7万2360円ですから、
格安どころか、激安スマホといっていいでしょうな。

では、なぜ、藤岡さんは、格安スマホをつくることができたのでしょうか。
背景には、中華圏での長い下積みがあったのですね。

藤岡さんは、きわめて異色の経歴の持ち主です。個性派です。
音響系専門学校を卒業し、派遣技術者として約3年間、大手電機メーカーの
量産設計部門に勤務した後、香港の印僑財閥傘下の家電ベンチャー企業
「エヌエイチジェイ」の社員として、台湾に駐在します。

この間、低価格デジカメ「Che-ez!」「D’zine」や、
低価格ポータブルオーディオプレーヤー「v@mp」を自ら企画。
中国のEMS/ODM企業に生産を委託して、
大手メーカーのおよそ半値でイオンに供給したことで注目を集めました。

さらに、05年、「エヌエイチジェイ」が米国進出の失敗により倒産した後、
単身、中国・深圳にわたり、アパートの1室で、
現在のジェネシスホールディングスを創業します。
独立独歩、わが道を歩き続けます。
工場を所有せずに製造業を展開する、いわゆる“ファブレス”の仕組みを活用しながら、
ジェネリック家電(低価格・高機能のデジタル機器)や生活家電を
中国で生産し納入するなど、生産受託ビジネスで実績を積み重ねました。

「FXC-5A」の開発に当たっては、
iPhoneの委託生産で有名な世界最大のEMS「鴻海精密工業」の
郭台銘董事長に直訴。自ら日本仕様のスマホを企画するとともに、
鴻海の中国工場に一室を設けて、品質や納期をチェックした。
つまり、日本生まれのコンセプトや知恵、ノウハウと
中国の生産力を融合することで、格安スマホの開発に成功したというわけです。
ケタはずれのエンジニアです。

私は、ここに、日本の新しいものづくりのヒントが隠されていると思います。
2000年代後半ごろからでしょうか、デジタル製品のコモディティ化が進んだ結果、
テレビだろうが、パソコンだろうが、スマホだろうが、
CPUやパネルといった部品を調達すれば、
誰でも組み立てられるといわれるようになりました。

米アップル社などが企画力や設計力、デザイン力を武器に成長を遂げた一方、
日本企業はコモディティ化の波になかなか勝てませんでした。
ソニーが新興国における低価格帯スマホの販売で大苦戦を強いられ、
撤退を強いられたのは、その一例と考えることもできなくもないですよね。

この点、藤岡さんの活躍はきわめて示唆に富んでいます。
藤岡さんは、エンジニアとしての力はもとより、
英語、中国語(北京語・広東語)を自在に駆使して、
ビジネス丸ごとをゼロから立ち上げるセンスと能力を兼ね備えたグローバル人材です。
大企業に所属せず、“個”の力でビジネスチャンスを切り拓く、
新しいタイプのものづくりリーダーと考えてもよいでしょうね。

“個”が持つ知恵やノウハウを最大限に生かせば、
日本には、まだまだ可能性があると思います。
何人かの“藤岡さん”が生まれることを期待したいですね。

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