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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

トヨタの“新工場建設解禁”の背景

トヨタ自動車は15日、メキシコと中国に新工場を建設する計画を正式に発表しました。2013年4月に工場新設を凍結して以来、初めてです。

メキシコの新工場では、19年からカローラの生産が開始されます。新たな設計思想「トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ(TNGA)」に基づくモデル工場です。生産能力は、年間20万台です。

中国では、17年度内に広汽トヨタの工場に3つめの新ラインが建設されます。生産能力は年間10万台で、こちらも、「TNGA」導入を念頭に置いた工場です。同時に、既存の第1ライン、第2ラインも刷新される計画です。

なぜ、トヨタは工場新設を3年間凍結してきたのでしょうか。そこには、拡大路線の猛反省があります。

トヨタは、08年9月のリーマン・ショックによる需要減の直撃を受け、09年3月期の決算において、4610億円の大赤字を計上しました。09年末から10年にかけては、北米で大規模リコール問題が発生し、トヨタの品質への信頼が一気に揺らぎました。

09年6月に社長に就任した豊田章男さんは、「台数や収益は、本来は結果。目的にしてはいけない」と拡大路線を猛烈に反省し、台数を追わない方針を表明して、「持続的成長」を掲げました。拡大路線にブレーキをかけたのです。勇気ある決断です。
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豊田章男さんは、年間販売台数が1000万台を超えるなかで、このまま「量」の拡大を追求しては、壁にぶつかるという強い危機感をもっていました。1000万台を超えても成長しつづけるためには、あえて立ち止まり、クルマづくりを根底から変えなければいけないと考えました。そして、3年間の新工場建設の凍結に踏み切りました。さらに、14年3月期決算説明会の席上、「意志ある踊り場」発言によって、より鮮明に内外に持続的成長路線を打ちだしました。

その凍結の3年間に、トヨタは、「TNGA」と既存工場の稼働率向上に着手し、クルマづくりを根底から変える取り組みを徹底して行ってきました。いわゆる構造改革ですね。今回、トヨタが新工場建設に踏み切ったのは、3年間の最終年度を迎えたからにほかなりません。加えて、3年の間に年間販売台数1000万台を超えても成長し続けられるメドが立ったからだとみていいでしょう。

「今回の新工場や新ラインは、トヨタの知恵と工夫を結集したものになる。トヨタは単なる「量を求めた拡大』と決別し、『もっといいクルマづくり』やそれを支える人材育成を通じ、持続的成長を図っていく必要がある。今回の取り組みは、トヨタの真の競争力強化における重要な試金石になる」豊田章男さんは、新工場新設再開にあたり、そのようにコメントを発表しています。

トヨタは、3年間の工場新設凍結期間で、工場の初期投資を08年比約40%低減のメドをつけました。新工場には、トヨタ特有の愚直な取り組みの成果が導入されます。つまり、メキシコ新工場は、トヨタの全世界のカローラを生産する工場のなかで“ダントツ”の競争力のある工場になるはずです。

メキシコ工場は、「TNGA」導入工場の世界最新モデルでもあります。トヨタは今後、メキシコ工場にみられるような「TNGA」のメリットを生かした賢いクルマづくりを他地域、工場でも展開していくわけですね。15年に「TNGA」導入の第一弾となる「新型プリウス」を発売し、2020年頃までに「TNGA」の対象モデルを世界販売全体の5割に拡大する計画ですからね。

まあ、「TNGA」と「競争力ある工場」の成果が出るのは、まだ少し先のことになると思いますが、「TNGA」と「競争力ある工場」は、2本柱として、トヨタを一回りも二回りも強くするのは、間違いないといえるでしょうね。

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