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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

近大だけじゃない。“イオン・マグロ”の商機

イオンは、「完全養殖」の本マグロをPB(プライベートブランド)商品として全国のスーパーで販売します。その狙いは、どこにあるのでしょうか。

「完全養殖」とは、人工孵化した魚を親として受精卵をとり、そこから次の世代を育てる、天然資源に依存しない養殖です。イオンは、完全養殖のノウハウを確立しているマルハニチロの協力を経て、孵化から稚魚、成魚まで、さらに店頭の販売までの一貫管理を行います。

イオンが「完全養殖」本マグロを手掛けた背景には、2014年11月、「大西洋まぐろ類保存国際委員会」が大西洋クロマグロの漁獲枠拡大を決定したことがあります。同年12月には、「中西部太平洋まぐろ類委員会」本会議において、太平洋クロマグロの未成魚の漁獲量半減が可決され、2015年から運用されています。

クロマグロの絶滅が危惧されるなかにおいて、イオンは天然クロマグロの生息に影響を与えない、「完全養殖」の本マグロを手掛けようというわけです。「完全養殖」の本マグロの刺し身をPB「トップバリュ」商品として、6月5日から2か月程度、グループ全体で年間3500尾販売する計画です。

「完全養殖」のマグロといえば、近畿大学水産研究所が1970年から研究を開始し、02年に完全養殖に成功した“近代マグロ”が有名です。「完全養殖」の課題は、天然ものに比べて、エサ代など膨大なコストがかかることです。また、卵から幼魚になるまでの生存率は1%から2%といわれ、リスクが高いことも知られています。つまり、簡単なビジネスではないんですね。

また、「完全養殖」のまぐろの味は、天然ものに引けを取らないにもかかわらず、日本人は、“食わず嫌い”というか、養殖ものを一段下に見る傾向にあります。「天然」という二文字に弱いわけです。その意味で、「完全養殖」まぐろの市場創造は、まだまだこれからというところです。

ここに、イオンの商機があります。イオンは、年間売上高が約6兆円で、セブン&アイホールディングスとならんで、スーパー業界では圧倒的な規模を誇ります。コストとリスクを引き受けて、「完全養殖」のクロマグロの一貫管理をビジネス化するだけの力をもっています。

また、スーパー各社はいま、PB商品の開発戦争にしのぎを削っています。「完全養殖」の本マグロはどこも手掛けていませんから、イオンのPBの目玉商品になるはずです。セブンの高級PB商品「セブンプレミアム」がヒットしていますが、「トップバリュ」のブランドイメージを上げる役割を果たすことになるでしょう。

イオンが「トップバリュ」から本マグロを売り出すことができるのは、「完全養殖」を一貫管理できるからです。漁獲量が安定しない天然ものではこうはいきません。PB商品は、通常のナショナル商品に比べて高い粗利益率を確保できることから、イオンの収益にとってもプラスです。イオン、セブン、ダイエー、ユニーのPBの売上高は、一か月に1兆円を超えるといわれますから、その市場規模にも期待できます。

そして、何よりも消費者に手ごろな価格で本マグロを提供して、その味を知ってもらうことの意味は大きいでしょう。やや先走っていえば、天然クロマグロの資源を守ることにもつながるといえそうですね。

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