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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

トヨタ「種類株」発行の意図は?

トヨタ自動車は16日、愛知県豊田市の本社で定時株主総会を開きました。注目の「AA型種類株」発行の議案が可決されましたが、それは、トヨタにとって何を意味するのでしょうか。

トヨタが発行する「種類株」は、5年間売却できないものの、株価が下がっても取得時の金額での買い戻しをトヨタに請求できる権利があり、事実上、元本が保証されていると見ることができます。

配当年率は、毎年0.5%ずつ上昇し、5年目以降は2.5%となります。ちなみに、トヨタは、最大で発行済株式数の5%未満の「種類株」の発行を予定しています。

トヨタの「種類株」は5年間、譲渡や換金ができません。この5年間というところに、意味があると考えられますね。

自動車の開発期間は、5~6年といわれます。つまり、自動運転技術や安全技術など、開発競争などが厳しさを増すなかで、5年間、株をもちつづけてもらうことの意味は極めて大きいといえます。

トヨタは現在、環境技術の核となるハイブリッド技術の強化、低燃費ガソリン車、燃料電池車などの開発、安全技術の開発と実用化、次世代モビリティなどに資源を投入しています。こうした投資は、すぐに成果が出るわけではありませんから、自らの投資が花開くのをじっくり待つことのできる、長期的視点をもつ株主の存在は欠かせないといえるでしょう。

トヨタはこの3月29日、個人投資家向けの説明会を開催し、抽選で選ばれた参加者約3500人を前に豊田章男さんが直々に経営戦略や理念を語りました。
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トヨタの株式に占める個人の保有比率は、約12.5%と、市場全体の20%程度と比べてかなり低い水準にとどまっています。個人株主を増やして、長期にわたって会社を支えてもらいたいという意図があるのは、確かでしょうね。

ただ、トヨタが「種類株」を発行する理由は、それだけではないと思います。というのは、安倍政権は、コーポレートガバナンスの策定と合わせて、持ち合い株式の議決権行使のあり方の検討に向けた取り組みを進めており、これまでのようにグループ企業間で株式を持ち合うことがむずかしくなるからです。

ご存知のように、トヨタグループは、豊田自動織機、デンソーなどの有力グループ企業間で株式を持ち合っています。株式の持ち合いは、トヨタに限らず、企業が安定的な成長を目指すうえで有効な手段でしたが、今後はそうした日本的なガバナンスのあり方が通用しなくなります。

トヨタにしてみれば、グループ企業に代わる安定的な株主が必要なわけで、それが「種類株」の発行に踏み切った理由といっていいのではないかということです。

「種類株」の発行について、まだ具体的なことは発表されていませんが、すでに、証券会社には、高齢者など、安定志向の強い投資家からの問い合わせが多数寄せられているといいます。

リスクを嫌う安定志向の強い投資家たちは、トヨタにとって、ある意味、理想的な株主といえるかもしれません。

「種類株」の発行には、米国の大手年金基金のカルスターズなどから反対の声があります。グループ企業間の株式の持ち合いが解消されるのと引き換えに、安定志向の投資家が株主となることは、トヨタにとって果たして歓迎すべきことなのかどうかというわけです。ここは、注視していかなければいけないでしょう。

社長の豊田章男さんは、「持続的成長」をモットーに、1年1年着実に「年輪」を刻み続けることが大切だといい続けています。

一方、世界を代表するグローバル企業である以上、海外の機関投資家を納得させられるような経営をしなければいけないことは確かです。そのバランスをどうとっていくのか。その舵取りは、決してやさしくはありませんね。

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