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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

VWもはまった“数字のワナ”

なぜ、今回の事件は起きたのか。私は、起こるべくして起こったという印象を受けました。
以下、その原因を、いくつか指摘してみたいと思います。

独VW(フォルクスワーゲン)CEOのマルティン・ヴィンターコーン氏は、引責辞任に追い込まれるなど、同社の排ガス規制逃れをめぐって、波紋が広がっています。

まず、拡大を急ぎ過ぎたことです。
ヴィンターコーン氏は、2007年に社長に就任した当時、約570万台だったVWの世界販売台数を、18年までに1000万台にするという目標を掲げました。
4月に突如辞任した、前CEOのフェルディナント・ピエヒ氏とともに、ポルシェなど、高級ブランドを次々と買収したほか、中国などで生産台数を急拡大しました。結果、目標の1000万台を、4年前倒して14年に実現。売上高は2倍近くに増えました。

つまり、高い目標を掲げ、実現を急ぎすぎるあまり、不正に走ったと見ることができます。
いわば、ピエヒ氏とヴィンターコーン氏のとった拡大路線のツケです。
一方、営業利益率は、トヨタの約10%と比較して、約6%と低迷しています。「成長」というより「拡大」してしまったことが、今回の事件につながったといえます。

さらに、環境対応技術への出遅れに対する焦りもあったでしょう。
VWが後を追ってきたトヨタは、「プリウス」を筆頭とするハイブリッド車の技術によって環境対応車を充実させてきました。一方、VWをはじめとする欧州企業は、ハイブリッド技術に出遅れた。

対抗手段として、VWなど欧州メーカーが取り組んだのが、電気自動車、そして、今回の問題となったクリーン・ディーゼル車でした。
ハイブリッド技術への出遅れが、不正のキッカケになった可能性はありますね。

さらに、米国についていえば、VWは、78年に米国生産を開始したものの、88年にいったん撤退に追い込まれます。その後、11年に再進出した経緯があります。
トヨタに追いつくため、また1000万台を達成するために、米国市場で一気に加速する必要があった。その起爆剤がクリーン・ディーゼルだったわけです。
その看板のはずのクリーン・ディーゼルが、じつは規制をクリアできていなかったとは、驚きを禁じ得ませんね。

トヨタの2010年以降のブレーキ不具合に関する大規模リコールは、記憶に新しいところです。しかし、トヨタのブレーキシステムは、結果として“シロ”でした。それでも、トヨタは、完全復活に2~3年を要した。

今回の事件において、VWは明らかに“クロ”です。ヴィンターコーン氏は関与を否定していますが、刑事事件に発展するのは確実でしょう。その意味で、ブランドに与えるダメージは、トヨタ以上になる可能性もあります。

トヨタは、2007年、「09年にグループ全体で1040万台」の計画を発表し、1000万台達成を目前に、先の大規模リコールで痛い目を見ました。ホンダも、伊東孝紳社長時代に600万台を掲げた末、フィットのリコールで痛い目を見た。VWも、1000万台を掲げて今回の事件を引き起こした。これは、“数字のワナ”ですよね。VWは、今後、拡大路線に走ったことによる、大きすぎるツケを払わされることになるのは、間違いないでしょう。

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