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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

シャープをめぐる みずほの思惑

<「本当に許せないね。特に『青』。適当なことばっかり言ってさ」
常に穏やかな口調で話す経済産業省の幹部が、珍しく激しい口調でまくしたてた。>

これは、『週刊ダイヤモンド』2016年2月20日号の「シャープ支援の迷走と混乱」と題する記事の冒頭の一説です。「青」とは、みずほ銀行のことですわね――。

じつは、シャープの支援をめぐって、産業革新機構や鴻海精密工業、銀行など、当事者間で思惑が錯綜しているんですね。
冒頭の引用は、革新機構案を推す経産省の幹部が、鴻海案を推すみずほに、腹を立てているという話なんですね。いま、確かなのは、鴻海がからむ日本の電機産業再編をめぐる闘いは、いよいよ“最終局面”を迎えているということです。

以前にも書いたように、カギを握っているのは、意外にも銀行ではないかということです。

シャープの主要取引銀行は、みずほ銀行と三菱東京UFJ銀行です。みずほは鴻海案、三菱東京UFJは、革新機構案を推しているといわれています。
現在シャープの経営陣には、両行から一人ずつ、取締役が入っています。

では、みずほは、どのような思惑があって、鴻海案を推しているのでしょうか。
まず、指摘できるのは、鴻海案のほうが、銀行の痛みが少ないということなんですよね。
シャープ支援に7000億円規模を出資するとする鴻海案は、銀行の優先株2250億円分を買い取るとしています。つまり、銀行に痛みを強制しないというわけです。
これに対して革新機構案は、優先株2250億円分は消却、すなわち銀行が負担することになっています。

しかし、話は、そんなに単純ではありません。みずほの思惑は、別にあるとみていいのではないでしょうか。
鴻海案の場合、鴻海の有利子負債7500億円の一部は、もともと鴻海とつながりの深いみずほなどが貸し出すといわれています。

この点については、『週刊東洋経済』が、2016年2月20日号の「迫る鴻海、待つ機構 シャープ買収の神経戦」という記事のなかで、7500億円の「シャープ買収のための資金を2行を含めた国内メガバンクから新規に借り入れる、とした」と書いています。銀行としては、おいしい話です。債権を放棄しなくてもいいうえ、お金まで借りてくれるわけですからね。

さらにさらに、みずほには、その先にも狙いがあると思われるんです。
海外戦略です。すなわち鴻海に通じることで、中国市場への進出をより確かにしたいのではないかという説も出ています。

いま、日本の各行は、海外戦略に注力しています。いや、生き残りをかけて海外進出を図っています。
例えば、みずほの“Super30戦略”がそれです。海外4地域(米国・欧州・アジアオセアニア・東アジア)から、それぞれ非日系優良企業約30社を選定し、多面的な取引拡充により長期的な関係構築に取り組んでいます。鴻海は、その30社に含まれても不思議はありませんね……。

みずほの海外戦略の中枢を担うのが、中国市場です。鴻海は台湾企業ですが、親中派といわれています。鴻海とのつながりを契機に中国市場に入り込もうという考えがあるのではないかとの見方もできます。

一方、鴻海は、シャープのブランドと技術がほしい。シャープが鴻海に取り込まれれば、それこそ、日本の技術が中国にまで流れていく可能性はありますね。

産業革新機構は、経産省の後ろ盾のもと、シャープの白物家電との統合を提案している東芝も含めて、日本の宝である電機産業の技術を守りたい。日本の電機産業の再編、立て直しの“大義”があります。

果たして、シャープの行く末はどうなるのか。結論が出るのは、24日にも開かれるシャープの取締役会です。

電機産業の最終戦争は、銀行や国の思惑が渦巻くなか、まさにギリギリの攻防戦の真っ只中で、経産省や業界関係者は固唾を飲んで状況を見守っています。

どちらの結論に至っても、日本の電機産業にとって“一大事件”になるのは、間違いありませんね。

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