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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

東芝メディカルはどこに買われるか?

いったい誰の手に落ちるのか。売却先を探している東芝メディカルシステムズの話です。
売却額は、7000億規模といわれます。今期、東芝は7100億円の最終赤字を見込んでいますが、それが丸ごと吹き飛ぶ額ですよね。

今月4日に行われた、東芝メディカルの第二次入札に応札したのは、キヤノンと富士フイルムに加え、英投資ファンドのペルミラと組むコニカミノルタです。第一次入札を通過した、三井物産と米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)の連合は応札しませんでした。

なぜ、三井物産・KKR連合は、東芝メディカル争奪戦からおりたのか。

簡単に、経緯を振り返ってみましょう。不正会計問題から経営難に陥っている東芝は、昨年12月21日に構造改革案「新生東芝アクションプラン」を発表し、そのなかで、医療機器子会社、東芝メディカルシステムズの株式の50%以上を他社に売却する方針を明らかにしました。
東芝メディカルシステムズは、磁気共鳴画像装置(MRI)など画像診断装置に強みを持つ、まさしく“虎の子”です。東芝は、その“虎の子”さえ手放さざるを得ない経営危機に陥っているわけです。

東芝社長の室町正志さんは、同日、会見の席上、「事業会社か投資ファンドかを問わず、オークションで決めます。場合によっては全株式を売却します」と語りました。
東芝メディカルの入札は、キヤノンや富士フイルムなど、医療事業を拡大したい企業にとっては、願ってもないチャンスですよね。
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※昨年12月21日、会見する東芝社長の室町さん

東芝社内では、おそらく、“虎の子”の売却にあたって「買い戻し」の可能性が検討されたのではないでしょうか。“虎の子”だけに、やすやすと手放すわけにはいかない。本体の体力が回復すれば、買い戻したいと考えるのは当然です。実際、当初、全株を売却する方針ではなかったようですからね。

株式の一部売却で済ませ、後に買い戻すことはできないか。買い戻せる可能性はないか。その場合、売却先は、競合より、三井物産・KKR連合のようなファンドのほうが都合がいいでしょうね。

もっとも、コトはそんなに甘くありませんよね。いまの東芝にとっては、「買い戻し」は理想論に過ぎない。そんなゼイタクをいえる立場ではありません。

それに、ファンドに売るといっても、本来、KKRのようなPEファンドは、業績不振の事業を買収し、再建して稼げる体質にし、企業価値を高めたうえで高く売却するのが仕事です。安く買って高く売らなければ商売にならない。
ところが、今回、東芝メディカルは、もともと業績は悪くない。黒字事業であり、劇的な企業価値向上を実現するのは容易ではない。つまり、もともとPEファンドのビジネスモデルに合わないといえます。
これが、今回KKRが応札しなかった理由の一つではないでしょうかね。

どこが買収するにしても、7000億もの巨額資金は、その後の事業上のシナジー効果が確かでなければ出せるものではありません。さらに、十分な財務余力がなければ出せる額ではない。

そのうえ、東芝は現在、売却先に対し、優先交渉を決めた時点で、応札金額の2割程度の“先払い”を求め、かりに破談しても返却しない方針です。2割といえば、1400億円規模です。成長市場の医療分野で高い技術力を持つとはいえ、強気です。
もっとも、こんな手でも打たなければ、今期の決算を乗り切れないほど、東芝本体の財務は弱っているということもできますが、どうでしょうか……。

三井物産とKKR連合がおりたのは、この条件を飲めなかったからだともいわれていますね。

かりに7000億円で売却できたとしても、東芝再建の道筋は、なかなか見えてきません。パソコン事業は富士通やVAIOと統合を検討中ですが、まだ決定していない。家電事業の売却先も決まっていない。

テレビや家電、PC、半導体などのリストラ。HDDの縮小に加え、変圧器や蓄電池の海外事業を縮小。テレビの海外における生産販売撤退。さらに東芝メディカルを売却。
ほとんど解体状態となった後、東芝本体は、どんな企業になっていくのでしょうか。電力・社会インフラ、半導体のメーカーになるのでしょうか。
東芝再建の道のりは、まだ長く険しいことは、疑いありませんね。

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