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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

日立、“原子力”に“鉄道”の経験を生かせるか

日立製作所は、4日、子会社で英原子力事業会社のホライズン・ニュークリア・パワーのトップ人事を発表しました。
5月1日付で新社長兼CEOに就任するのは、ダンカン・ホーソーン氏です。13年5月から同社の社外取締役を務めていました。

ホーソーン氏は、スコットランド出身。英ブリティッシュ・エナジー社の北米担当役員やアメジェン・エナジー社の社長を歴任し、01年から現在にいたるまで、カナダ唯一の民間原子力発電会社ブルース・パワーの社長兼CEOを務めています。
いうまでもなく、電力事業に精通する経営者ですよね。

さらに、彼は、カナダ原子力協会会長に加え、世界原子力発電事業者協会アトランタセンター議長を務めるなど、世界の原子力産業に通じています。日立は、いい人を起用したといっていいでしょう。

私は、この人事を見て、日立の過去のある人事を思い出しました。
日立レールヨーロッパのアリステア・ドーマー氏です。
同氏は、英国海軍、ブリティッシュ・エアロスペース、アルストムに勤めた経歴をもち、03年に40歳で日立レールヨーロッパに入りました。

なんでも、ドーマー氏に白羽の矢を立てたのは、技術を重視する日立の企業風土の理解者だったからだと聞いています。

現在、日立レールヨーロッパ社取締役会長兼CEOを務めるほか、実績を評価され、15年4月には外国人としては9年ぶりの本社執行役として、交通システム事業グローバルCEOに就任しました。

日立の英国鉄道事業は、いまでこそ、成功事例として広く知られるようになりましたが、99年に進出した当初は、ロンドン駐在員は、確か一人。入札に立て続けに失敗するなど、苦難の連続でした。
車両の規格の違い、保守形態の違いなど、英国進出には多くの課題がありました。もっとも大きかったのは、英国の鉄道事業の複雑さに対応できなかったことでした。

当初、日立の英鉄道事業の活動は、すべて日本人社員が行っていたんですね。日立は、それではムリだと悟ったんですね。

というのは、英国の鉄道業界は複雑です。軌道や信号といったインフラの所有者と、運営を行うオペレーション会社が異なるほか、車両は銀行系のリース会社が保有し、オペレーション会社にリースすします。
日立のような車両メーカーは、車両と保守事業と併せて、リース会社に納めます。運輸省に加え、複数の企業が絡み、誰かどこで何を決めているのかわかりにくい。この手のビジネスに精通した、経験豊かな現地社員が求められました。

そこで、日立は、ドーマー氏を採用したのです。ドーマー氏は、英国流のビジネスの進め方に精通していました。
ドーマー氏を中心としたチームを結成して、運輸省や企業間の折衝には英国人があたるようにした。そして彼に権限委譲したんですね。日本人スタッフは、あくまでサポートに回る体制にしたんです。
日立の高い技術力が成功の背景にあったとしても、彼を抜きにして、日立の鉄道事業の大成功はなかったでしょう。

今回のホライズンの人事は、“第二のドーマー”をつくろうという作戦でしょうね。
発電事業、それも原子力といえば、鉄道以上に政府との連携が欠かせません。国によって独特のビジネス慣習もあるでしょう。
その点、ホーソーン氏は英国の電力会社で社長経験があり、人脈においても、慣習においても、これ以上の人材はない。成功のパターンはできたということでしょうかね。

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