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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

鈴木会長引退後のセブンは漂流か

セブンの鈴木さんの突如の引退は、正直、サプライズものでした。

昨日、セブン&アイ・ホールディングス会長兼CEO(最高経営責任者)の鈴木敏文さんが、退任を表明しました。
報道されている通り、きっかけは、昨日午前に行われた取締役会で、鈴木さんの推した人事案が否決されたことです。責任をとって辞めるといいますが、退任後のセブン&アイは、大丈夫なんでしょうかねェ。

私は、かつて『実践・経営革命――精鋭企業5社に学ぶ』(中央公論社)を上梓しました。このなかで、セブン-イレブン・ジャパンをとりあげ、当時会長だった鈴木さんにインタビューをしたのをはじめ、何度かお会いしたことがあります。
お会いした印象としては、「信念の人」だということです。強い信念があったからこそ、一代でコンビニエンスストアのビジネスモデルを築き上げ、ここまで突き進んでこられたのでしょう。
鈴木さんは、セブン&アイ・ホールディングスの中興の祖であり、日本の小売業の“カミサマ”といわれる強力なリーダーであり、カリスマ経営者ですよね。
日本の小売業界を変え、世界に通用するビジネスモデルをつくった人物といっていい。
83歳という高齢ですが、いまだに弁舌は鋭く、世界からも注目される経営者ですよ。
その“カミサマ”を、このような形で引退させてよかったのでしょうかねェ。これについては、私は、じつは、にわかに結論が出せないでいます。いったい、何があったのでしょうかね。

少し経緯を振り返ると、鈴木さんは、グループ中核企業であるセブン―イレブン・ジャパン社長で58歳の井阪隆一さんを交代させ、後任に、取締役執行役員副社長で66歳の古屋一樹さんを昇格させる案を主張していました。
ところが、この人事案は指名・報酬委員会で2人の社外取締役が反対。さらに、セブン&アイの株を持つ米投資ファンド、サード・ポイントも反対。そして、グループの祖業イトーヨーカ堂の創業者でセブン&アイ名誉会長の伊藤雅俊さんも反対していたようです。

鈴木さんは、指名・報酬委員会での結論が出ないまま、前出の昨日の取締役会にこの人事案を提案しました。強行といっていい。これは、コーポレート・ガバナンスの点からいえば、許されないやり方ですよね。問題は、なぜ、鈴木さんはこのような強行策に出たかでしょうね。これもナゾですよね。

もっとも、セブン&アイにおける指名・報酬委員会は、今年3月8日に取締役会の任意の諮問委員会として設置が決められたばかりで、独立社外取締役の伊藤邦雄さんを委員長として、社内取締役2名、伊藤さんを含む独立社外取締役2名、オブザーバーとして社内外の監査役がそれぞれ1名という6人構成だったようです。設置されたばかりだったから強行したというわけではないでしょうが、カリスマ経営者の自負というか、奢りはなかったといえるのかどうか。また、ここのところを追及していくと、コーポレート・ガバナンスの問題が浮上しますが、この点については、月曜日のこの欄で触れるつもりです。

そもそも、なぜ、鈴木さんが井坂さんを降ろそうとしたかも、これまたナゾが残ります。
井坂さんは、2009年に同社社長に就任。積極出店で業績を伸ばし、5年連続の最高益を更新するなど、功績は評価されていました。
井坂さんに対する世間からの評価、指名・報酬委員会や創業家、社外からの評価と、鈴木さんが下した評価は正反対です。しかし、結論からいえば、5年連続最高益更新の社長を辞めさせる理由はないとなったわけです。

そして、井坂さんの評価をめぐって、これまで鈴木さんのやり方に異を唱えたことのなかった創業家の伊藤雅俊さんが、ここにきて反対したという点も、ナゾです。
私は、伊藤さんにもインタビューしたことがあります。
非常に賢い人という印象を受けました。総会屋問題で辞職したのち、セブン&アイの経営のすべてを鈴木さんに一任し、一切口出ししなかった。心の広いというか、潔いというか、何と賢い人かと思いましたね。それが、セブン&アイが今日の姿にまで成長した理由の一つでもあるでしょう。
ただし、こういっちゃあ何ですが、いい意味での相当の“タヌキ”であることは間違いありません。
鈴木さんは、昨日、引退を表明した会見の席上、「世代交代」と何度か口にしました。世代交代が何を意味するのか、会見からはいまひとつわかりません。
伊藤家、鈴木家は、ともに次男がセブン&アイの取締役に就いています。背景に世襲問題がある可能性は否めませんよね。となると、お家騒動ということになりますわね。

セブン&アイの人事は、明らかに混乱していますね。
強力な求心力とリーダーシップを発揮したカリスマの退任後、約14万8000人の従業員を抱える巨大企業の舵取りを、誰が担い、どう引っ張っていくのか。
セブン-イレブンのトップも揺れるなか、人事の混乱が長引けば、セブン&アイという巨大船舶は、漂流することになりかねませんね。

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