Loading...

経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

サントリー山崎蒸溜所⑥  なぜ、樽熟成にこだわるのか

蒸溜されたばかりの無色透明なニューポットは、樽に詰められて長期間、じっくりと熟成されます。その期間は数年から50年以上です。ウイスキーが“在庫ビジネス”といわれる所以ですね。
DSC072933
樽材の成分、樽を焦がすことにより変化した成分が溶けだし、次第に琥珀色に染まり、香味を増していくわけです。

ポイントは、樽です。サントリーは、一部の樽を木材から製造しています。現地で伐採された樽材を樽工場に運び、天然乾燥させるところからスタートします。約2年間、天日に干し、雨に当てて、ウイスキーに悪さをする成分を流します。最初、樽材は真っ黒になりますが、1年くらいたつと、自然ときれいな色に戻ります。このあと、樽材を切りそろえ、熱を加えて曲げます。

樽は、大きいもので40枚の側板が使われます。側板を組み合わせ、樽型に成形したあと、輪締めをして、内面を焼きます。樽を焼くのは、樽材内部にバニリンという甘い香り成分を生成させるためです。この樽の焼き方で、モルトの熟成具合が大きく変わってくるんですね。

サントリーは、バーレル、ホッグスヘッド、パンチョン、シェリー、ミズナラなど、数種類の樽を使っています。

例えば、シェリー樽は、スペイン産のスパニッシュオークからできています。サントリーのブレンダーは、現地での樽材の伐採から関わるんですね。1年ほど天日干しをした樽材でつくられた樽に、シェリー酒を入れて、3年ほど寝かせます。サントリーのブレンダーは毎年、樽の様子を検査するためにスペインを訪問するんですね。

「山崎」や「響」に欠かせないのが、伽羅や白檀に代表される香木のような独特の熟成香を生み出す、日本ならではのミズナラ樽なんですね。

「ミズナラ樽で貯蔵された原酒を1滴、1滴使うことで、不思議なことに、ほかの香りが開いて、トータルの味が変わってくるんですね」

佐々木さんの解説です。

ミズナラ樽は、サントリーが保有する全100万樽のうち、1%未満しかありません。大変、貴重な樽なんです。

さて、無色透明だったニューポットは、樽の中に寝かされると、年を経るごとに褐色が深くなり、同時に少しずつ容量が減っていきます。自然蒸発ですね。

「エンジェルズシェア(天使の分け前)といわれる現象ですね」(佐々木さん)

「原酒が空気と触れ合うことで少しずつ逃げていくんですね。また、不思議なことに、貯蔵庫内の保管位置など、ウイスキー樽の熟成環境によって、アルコール度数が上がったり下がったりします」(同)

熟成のスピードは、貯蔵庫の樽の置き場所によっても変わってくます。例えば、樽が三段に積まれている山崎蒸溜所では、最上段ほど温度が高く、水分が飛ぶ比率が高い。

また、湿潤な気候で霧が発生しやすい山崎の地は、原酒が逃げていきにくく、ウイスキーの熟成に好条件です。

むずかしいのは、熟成のピークの見極めです。熟成のピークとは、モルトが円熟味を増してまろやかな香味になった状態です。逆に、ピークを越えると、渋みが出てしまいます。

佐々木さんによると、理想的な熟成ピークを見極めるのは、きわめてむずかしいそうです。

「それをチェックするのが、ブレンダーです。数年でピークを迎えたとしたら、それは『角瓶』などに回します。20年経ってもピークを迎えていないのであれば、あと数年待つ。30年でピークを迎えたら『響』に回すといった具合ですね」

熟成の立ち上がりは早く、あとになるほどゆっくり頂点を目指して上りつめていく。ウイスキービジネスは、在庫ビジネスといわれますが、長い歳月をかけて進む熟成の話を聞けば行くほど、その言葉に合点がいきますよね。

ページトップへ