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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

ホンダが新設する「R&DセンターX」の正体は?

ホンダが、「赤坂Bizタワー」の27階という一等地に「Honda イノベーションラボ Tokyo」を開設したのは、昨年9月です。ホンダは今日、そのオープンハウスを開催し、4月1日付で「R&DセンターX」というナゾめいた名前の研究所を設置すると発表しました。


※スピーチする本田技術研究所社長の松本宜之さん

この「R&DセンターX」新設を、本田技術研究所社長の松本宜之さんは「研究所の新たな船出」と位置づけました。

そもそもホンダは、1960年以来、本田技研工業本体から、研究開発組織を分離して本田技術研究所という子会社として運営する、変わったマネジメント構造をとっています。いってみれば、売り上げなど業績の束縛から技術者を解放している。彼らの自由な発想と活力を保証するため、経営と研究開発を分離しているんです。ちなみに、研究所の運営費は、本体の売上高の5%が当てられています。

現在、本田技術研究所には、「四輪R&Dセンター」をはじめ、二輪、汎用、航空機エンジン、基礎技術、F1関連の6つの「R&Dセンター」と、子会社や複数の海外拠点があります。加えて新たに「X」という「R&Dセンター」を設ける。

「R&DセンターX」では、自律的に動く機械やシステムを「ロボティクス」と総称し、当面、ロボティクスとその基盤となるAIを中心に研究開発に取り組む。ただし、研究開発領域については、臨機応変にターゲットを変化させるといいます。

もっとも、ホンダ社内では、AIのことを、「Cooperative Intelligence」すなわち人と協調できる人工知能として「CI」と呼んでいるそうです。

「R&DセンターX」の運営について、松本さんは、こう説明しました。
「かつて創業時の私たちがそうであったように、やはり、イノベーションというのは、柔軟で、機敏で、野心的な組織から生まれてくるものだと思っております」

さらに、記者の質問に答えて、次のようにも話しました。
「研究所は1万5000人も従業員がいて、本田技研全体にもものすごい数の人間がいる。いちいち調整することも重要ですが、『クイック』『スピード』が大事な世界なので、あえて切り離し、いってみれば『出島』にし、突破口としたい」

私は今日の会見を聞いて、本田技術研究所が1986年に極秘裡に設けた「基礎技術研究センター(基礎研)」を思い出しました。研究所トップとして基礎研を設置した元ホンダ社長の川本信彦さんにインタビューした際、彼は次のように語りました。
「なぜ基礎研をつくったかといえば、研究所が商品に振り回されるようになってしまったから。そうなると、研究所が本来持つべきカルチャーがどんどん弱まってしまうという危機感が僕のなかにあった。8000人(当時)の技術者を抱える研究所が、これではだめだと感じました」

基礎研は、世界初の二足歩行ロボット「ASIMO」や、航空機エンジン、ホンダジェットなどを生み出す母体となったんですね。

もっとも基礎研は極秘裡に設置されましたが、「R&DセンターX」は設置を公表しています。当然、研究内容の詳細や規模などは明かされませんが、それでも広く世界に存在をアピールし、優れた人や技術を呼び込もうという姿勢は、かつての基礎研とは正反対です。これは、時代の要請でしょう。

このブログでも何度か触れていますが、ホンダはいまや、「オープンイノベーション」の姿勢を明確にしています。今日の会見でも、松本さんは、「オープン・ザ・ドア」「オープンイノベーション」を強調しました。この姿勢を外に向かって明確にアピールすることで、独創的で優れたアイデアをもつベンチャー企業や研究機関、大学、個人などが話しを持ち込みやすくなる。

今年1月に開催されたCESでも、ホンダは「オープンイノベーション」を発信し、800件以上のコンタクトがあったといいますから、その効果は大きいですよね。ちなみに「R&DセンターX」へのコンタクトの窓口は、「Honda イノベーションラボ Tokyo」が担います。


※「Honda イノベーションラボ Tokyo」内の様子

AIやロボティクスの研究開発は、いまや世界中の企業がこぞって取り組む最先端分野です。国内外のハードメーカー、ソフトメーカー、大手、ベンチャー、自動車、電機、通信、あらゆる企業があらゆるアプローチでこの分野に進出している。

しかし、市場における勝敗は、まだ決してはいません。むしろ、まさにこれから、激戦が繰り広げられる領域です。ホンダの試みからどんな成果が生まれるのか。多くの関係者が注視しているのは間違いありませんね。

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