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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

日本の鉄鋼業が生き残る道は――富田製作所④

中小企業トップインタビュー:富田製作所社長 富田英雄氏④

 

「鉄は産業のコメ」といわれた高度経済成長期は、いまや過去の話です。しかし、社会インフラ、建築物をはじめ、飛行機やクルマ、家電製品にいたるまで、最終製品に鉄が使用されている限り、鉄が産業にとって重要であることに変わりはありません。

一方で、いま、新興国の鉄鋼メーカーの台頭により、汎用鋼材は世界的な生産過剰で価格競争が激化し、世界の鉄鋼業界では、近年、合従連衡や大型化が進んでいます。
片山 富田製作所にとって、鉄鋼メーカーはお客様にあたります。日本の鉄鋼業は、近年、中国のダンピング問題で暗い話ばかりでした。中国の鉄は過剰生産を是正する動きが出ていましたが、いまだに、粗鋼生産量の世界ランキングを見ると、トップ10のうち、じつに6社を中国メーカーが占めます。日本の鉄鋼メーカーは苦しいですね。

※富田製作所社長の富田英雄さん

富田 国内鉄鋼メーカーさんは、今後、国内需要がどんどん増えるとは考えにくいなか、長くさまざまな形で鉄が社会に入り込むために、いろんな高付加価値製品を開発しながら頑張っていると感じています。一方、海外市場では、インドや中国メーカーの台頭で鉄は価格競争に陥っている。いまだに中国と日本の鉄は、品質に大きく差がありますが、価格においては、中国メーカーとも闘っていかないといけない。鉄鋼メーカーさんは、非常に努力されていると思います。

片山 日本の鉄鋼業の技術力は、自動車用の鋼板などに鍛えられてきた。世界でも最高水準です。

富田 それはその通りです。ただ、2011年に新日鐵と住友金属とが合併して、世界第2位の高炉メーカーになりましたが、15年には3位に後退してしまった。中国の河鋼集団に抜かれたんです。いまや、JFEと新日鐵住金を合体させてもトップのアルセロール・ミッタルにはかなわない。

片山 鉄鋼業は装置産業ですから、投資額が大きいほうが、どうしたって強くなりやすい。世界の鉄鋼メーカーは大規模化、再編が活発ですよね。

富田 そうなんですよ。そこで僕は、周囲から「そんなことあり得ない」といわれながら提唱していることがあります。「独禁法改正」です。JFEと新日鐵住金だけじゃなくて、もうオールジャパンで一緒になって世界と対抗していくようにしないと、とても勝てないですよ。「鉄は国家なり」ではありませんが、鉄は、本当に国にとって必要な産業です。社会インフラは当然ながら、外交問題が不穏ないま、いざ国を守るとなったら、鉄なしには何もできませんからね。日本を守るのは、鉄なんです。

片山 結局のところ、経済も国防も、鉄がないとだめですね。

富田 その鉄をつくる鉄鋼メーカーが、海外に脅かされているというのは、おかしいでしょう。

片山 「富国強兵」ではありませんが、国家的見地からいうと、鉄鋼業は軽んじられてはならない産業であるのは間違いない。

鋼材といえば、トヨタは新日鐵住金との半期に一度の鋼材価格の調整で、16年度下期に買い取り価格を大幅アップさせました。部品メーカーに卸す価格も17年度上期にはトン当たり1万4000円値上げします。石炭や鉄鉱石が高騰していますからね。

富田 そうですね。それも中国が昨年9月以降の新体制下で、国内需要のために原料を大量購入したからであって、日本は中国のあおりを受け続けるんですね。こうした世界のなかで闘っていくためには、やはりオールジャパンで取り組むしかないと思うんですけどね。

日本の鉄鋼業は、鉄の生産量は中国、米国に次ぐ3位ですが、高級鋼材生産量においては世界一を誇ります。技術力、精密さ、省エネ技術などにおいては、世界トップレベルなのです。それが、富田製作所だけでなく、日本の自動車、電機などの主要産業を縁の下で支える力となっている。

日本の鉄鋼メーカーは、規模の確保に加えて、技術力において世界トップであり続けることが、グローバル競争のなかで生き残っていく唯一の道ではないでしょうか。

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