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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

『技術屋の王国――ホンダの不思議力』著者インタビュー 3

『技術屋の王国』の読み方
ポイント③ホンダは奇人・変人を生かす達人

 

――『技術屋の王国』には、個性的な人がたくさん登場します。元社長の久米是志さん、川本信彦さんはもとより、当初航空機開発を指揮した「カミソリのような」井上和雄さん、「タヌキ親父」と呼ばれたエンジンの開発責任者の窪田理さん、ホンダジェット開発責任者の藤野道格さんをはじめ、ASIMOの研究者ら、奇人・変人・怪人たちです。


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片山 ホンダには、一クセ、二クセあるけれど、素晴らしい才能をもつ“異能”“異才”がたくさんいるんですよね。彼らは、ホンダが次々と「世界一」や「世界初」の技術を生み出す「不思議力」の源泉です。

問題は、なぜ、ホンダにそうした人材が集まるかです。

ホンダは、採用段階から、異能、異才、奇人・変人を積極的にとる。さらに、その才能の芽をつぶさないように守り、才能を発揮できる場を与える。通常の組織のなかでは、“はみ出し者”になったり、“出る杭”として叩かれかねない人たちに、どんどん力を発揮させるんですよ。

“個”の能力を生かす術に関していえば、ホンダは卓越している。人の力を引き出す達人だと思いますね。

――「生意気であることにこそ価値がある」と、本文にもありますね。人材育成についていえば、ホンダの人材育成は、「二階にあげてハシゴを外す」といわれます。

片山 そうそう。若い人をそそのかして二階にあげておいて、「あとは自分でやれ」とハシゴを外してしまう。でも、そうやって仕事を任せることで、若手が育つでしょ。

それから、本書の中でも触れましたが、技術者の「死んだフリ」を許す風土があるんですよね。

―― アンダーテーブルの研究開発、“ブートレギング(密造酒づくり)”の一種ですね。研究を諦めたフリをして続ける技術者に対し、上司は「見て見ぬフリ」をする。ブートレギングは、グーグルの20%ルールや、3Mの15%カルチャーなどがよく知られています。

片山 そうなんだけど、そうやっていまの若い人は、すぐアップルだ、グーグルだ、テスラだって、シリコンバレーの企業をありがたがるでしょう。スティーブ・ジョブズやイーロン・マスクは確かに天才でしょうが、もっと身近にも、本田宗一郎のホンダという成功例がある。ホンダはもっと注目されていいんですけどねェ。

実際、イノベーションを次々と生み出してきた画期的な組織の例なんですよ。ホンダジェットだって、ホンダ独特の組織から生まれたイノベーションです。

だいたい、シリコンバレーの企業とか、ドイツ車を日本人がもちあげる風潮には、どこか西洋コンプレックスがあるような気がしますわな。

――日本人は、もっとホンダに学ぶべきだと。

片山 そうです。日本企業は、トヨタからはいろんなことを学ぶんですが、ホンダの人づくりとか、“個”を生かす方法、人の力を引き出す方法を学ぶという話は、あまり聞かないですよ。もったいない。

米国のコンサル型人事をお勉強するより、ホンダの柔軟な人づくりを学ぶほうが実践的だと思いますけどね。ホンダジェットだって、ホンダが奇人・変人・怪人を生かして活躍させる文化をもち、そういう組織だったからこそ、実現したわけですから。つまりは、「技術屋の王国」なんですよね。

いま、三菱重工の小型旅客機MRJ(三菱リージョナルジェット)は、米FAA(連邦航空局)の型式証明取得で悪戦苦闘中ですよね。だから三菱はダメだというのではなくて、ホンダみたいな小さな企業でさえ、30年かけて成功させたんだから、それに学んで、勇気を得て、頑張ってほしいと思うんですよね。

しつこくね、諦めずに、成功させてほしいですよね。

※ホンダジェット開発責任者の藤野道格さん(左)と筆者。ホンダジェットの内装を見ながら(ノースカロライナ州/2015年12月8日撮影)

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