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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

トヨタ新ブランド「GR」への挑戦の意味は?

トヨタは19日、都内で新ブランド「GR(GAZOO Racing:ガズーレーシングの頭文字)」を発表しました。「TOYOTA GAZOO Racing Company」は、今年4月に設立された、トヨタで最後発、最小のカンパニーです。


※「TOYOTA GAZOO Racing Company」プレジデントの友山茂樹さんと(左)と豊田章男さん

「GAZOO」は、20年前に現在のトヨタ社長の豊田章男さんが課長だった頃、有志のメンバーで開発した中古車画像システムが起源。

当時営業の地区担当員だった章男さんは、販売店のバックヤードの業務にトヨタ生産方式を導入し、販売店の物流改善に着手していました。そうしたなかで生まれたのが、中古車画像システムなんですね。

販売店の下取り車を、展示を待たずにすぐに画像で紹介するシステムで、展示に至るまでの業務改善も併せて行うことで、再販までのリードタイムを短縮するという、インターネットも普及していない当時としては画期的なシステムでしたよ。

しかし、「画像でクルマの商売ができるわけがない」、また、「販売店にメーカーの改善は通用しないんじゃないか」と猛反発にあったんです。この中古車画像システムは、トヨタブランドを名乗ることができずに、画像システムの「画像」を取って「GAZOO」と名付けられたという経緯があります。

その後、「GAZOO」は、中古車だけでなく、クルマの総合ポータルサイトとして定着しましたが、当時としては変革へ向けた大きなチャレンジでした。

さらに、そのチャレンジがクルマづくりへと波及したのが「GAZOO Racing」。当時、トヨタのモータースポーツはF1に代表されるトヨタレーシングが担っていました。

そこで、モータースポーツを、「人材を鍛え、クルマを鍛え、いいクルマづくりの基盤にすべきだ」と考えた章男さんは、それを自ら実現させるため、有志を募ってニュル24時間レースに参戦したんですね。

あくまで有志の活動だったため、トヨタレーシングと名乗ることができず、章男さんは「Team GAZOO」を結成し、自らも「モリゾウ」と名乗った。十分な予算がなかった「Team GAZOO」は、中古のアルテッツァを改造して、「モリゾウ」をはじめとする社員の評価ドライバーを中心にしたチームで、2007年の初参戦で完走を果たした。「GAZOO」の根底にあるのは、トヨタが作った壁を自ら打ち破る、チャレンジ精神そのものなんですね。

2015年、トヨタ、レクサス、GAZOOと分断していたトヨタのモータースポーツ活動が「GAZOO Racing」の元に一本化された。そして、ニュル24時間レース参戦から10年、今年4月に「TOYOTA GAZOO Racing Company」として、新たな船出を迎えた。

「TOYOTA GAZOO Racing Company」に与えられたミッションは、レース活動で得た知見を活かし、世界に通用するスポーツカーを商品として世に出し、新たな顧客層を開拓して収益に貢献すること。

また、「開発・生産・販売」まで一貫して担える最小のカンパニーを具現化し、新しい仕事のやり方に挑戦すること。さらに、こうした活動を通じて景気に左右されない永続的なモータースポーツ活動を可能とすることです。

「GAZOO Racing」は、FIA世界ラリー選手権(WRC)とFIA世界耐久選手(WEC)の二大レースを中心に、これに繋がる国内トップカテゴリーのレースに参戦しています。

今回、第一弾として投入される「GRシリーズ」は、「GR ヴィッツ」、「GR SPORT プリウスPHV」など6車種。

また、200馬力を超えるスーパーチャージャーを搭載した「GRMN ヴィッツ」、「GR 86」などが今冬から順次投入されていく予定で、今年度中に9車種11車両の「GR シリーズモデル」が投入される。

販売拠点はこの「GR」ブランド立ち上げを機に、GR車種を扱う「GR GARAGE」として、今年度中に39店舗を全国に展開する計画です。「GR GARAGE」には、「GR コンサルタント」という専門性の高いスタッフを常駐して顧客の相談に乗ります。限定販売となる「GRMN ヴィッツ」を除く「GRシリーズ」は、従来のすべての販売店で購入が可能なんですね。


※「GR」ブランドについて説明する友山さん

発表会中、「TOYOTA GAZOO Racing Company」のプレジデントで、コネクティッドカンパニーのプレジデントも務めるトヨタ専務役員の友山茂樹さんは記者会見の席上、次のように語りました。

「私はトヨタ自動車でIT本部やコネクティッドカンパニーのプレジデントも兼務しています。ただ、クルマがどんなにIT化しようと、どんなに電動化しようと、我々にとって大切なことは、ユーザーが乗りたくなり、自分で操りたくなるような魅力的なクルマをつくり続けることです」

グローバルに展開するスポーツスタイルの「GR」ブランドは、第一弾として欧州での展開を予定している。WRCの参戦以来、「GAZOO Racing」はトヨタ車の認知度向上に大きく貢献してきた。例えば、ヤリス(日本名:ヴィッツ)がフィンランドで表彰台の1・3位を獲得した7月には、フィンランドでのヤリスの販売は、前年比で1.6倍を記録したんです。

「レースという極限のなかで人を鍛え、鍛えられた人がクルマを鍛える」
とコメントした友山さん。コストや品質など、様々な制約のなかから生まれた知見を市販車にフィードバックし、「もっといいクルマづくり」に繋げることが、「GR」ブランドの目標なんですね。早い話が、若者を意識したブランドです。

この日、サプライズで登場した「モリゾウ」こと豊田章男社長は、日本の自動車産業の礎を築いた豊田喜一郎さんを引き合いに出して、これからのモビリティの方向性について問われると、次のように答えました。
「どこに進むかは、当時の豊田喜一郎グループも今の我々もわかりません。お客さんと市場が決めていくことです。ただ、当時の創業グループが思っていたのは、誰かを喜ばせたいということ。人が単にA地点からB地点へ移動するのではなく、心とともに感動させることにこだわりを持ちたい」


※「GR」ブランドのクルマでデモ走行を行う章男さん

次世代環境車の本命がEVになるのか、FCVになるのか、まだまだ混沌としています。その意味で、「GR」ブランドが打ち出した戦略は、フルラインナップメーカーだからこそできるチャレンジングな試みといえるでしょうね。そして、若者の〝クルマ離れ″が指摘されるなかで、スポーツタイプの「GR」は定着するのかどうか……。トヨタの挑戦は注目されますね。

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