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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

ベイン・キャピタルが舵とる東芝メモリの行方

東芝の半導体事業、東芝メモリをめぐるドタバタ劇は、ようやく進展が見られた印象ですかね。

米ベイン・キャピタルは、昨日、東芝メモリ株式取得についての説明会を行いました。ベイン日本代表の杉本勇次さんは、席上、「東芝メモリ社が、日本の独立した企業として今後も経営を続けていく支援をさせていただきたいと考えている。企業価値を高めることで、数年後に東京証券取引所に上場させていただきたい」と明言した。

※会見する杉本勇次さん

少し振り返ってみると、東芝は、先月28日、東芝メモリを日米韓連合に売却する契約を結んだと発表しました。じつは、その日米韓連合を率いるのが、ベイン・キャピタルなんですね。

ベイン・キャピタルについては、依然にもこのブログで書きました。経営コンサルティング会社から独立したPE(プライベートエクイティ)ファンドです。PEファンドのなかでも、コンサルティングをベースに投資を行う特徴があり、投資先企業に企業戦略のプロフェッショナルを送り込み、事業のバリューアップに重きを置きます。簡単にいえば、経営難に陥った企業を買収し、中長期的な視点をもって経営を立て直し、企業価値を高めて株式公開し、リターンを得るわけです。

本部のボストンに加え、ロンドン、ミュンヘン、東京、香港、上海、オーストラリアなど世界各地に事務所をもち、世界で約9兆円の資産を運用しているんですね。

ちなみに、半導体ではフィリップスの半導体の事業部門だったNXP、テキサスインスツルメントのセンサー部門だったセンサータに投資し、米市場に上場した実績があります。また、国内では、ガストやバーミヤンなどを展開する「すかいらーく」や、「大江戸温泉」「雪国まいたけ」などにも投資しています。

東芝メモリもまた、経営に深く関与してバリューアップし、3年後をメドに東証上場でリターンを得る計画なんですね。

さて、その東芝メモリですが、ベインの説明によると、議決権は、東芝が40.2%、Hoyaが9.9%、ベインが全議決権をもつ特定目的会社が49.9%をもちます。

※ベイン・キャピタル配布資料より抜粋

この3社の出資金額は、東芝3505億円、Hoya270億円、特定目的会社6070億円で、3社計9845億円です。

ちなみに、特定目的会社の6070億円のうち、3950億円は、韓SKハイニックスが融資します。これは、転換型社債1290億円を含み、今後10年間、東芝メモリ社の議決権は、15%以下しか取得できないという制限つき。また、ファイアーウォールを設けて技術流出は防止する。

さらに、銀行が6000億円を融資。また、社債型優先株式によって、米アップル、デル、シーゲイト、キングストンが4155億円を融資。全部合わせて2兆円という大型案件です。

額が大きいのに加え、買収する側は、3か国10社以上の国際コンソーシアムです。しかも、時価総額1位のアップルはじめ、一流企業ぞろいで簡単な交渉は一つもありません。そのうえ、未定ではありますが、産業革新機構や日本政策投資銀行なども興味を示しており、経産省まで「技術流出」だ「雇用確保」だと、口を出す。

これだけグローバルに、多様な利害関係者がいるなかで、巨額を動かし、複雑な案件をまとめあげるのは、ものすごい力業が必要です。「日本、韓国、米国も西、東があり、グローバルのチームで対応できたのが、一つ大きかったと思います」と、杉本さんはコメントしました。

ここまで、よくこぎつけたものですが、まだまだ、山も谷もある。

一つは、WD(ウエスタンデジタル)との係争です。杉本さんは、WDについて、「重要なジョイントベンチャーのパートナーで、将来的にもそれは変わらない。長年一緒にやっていると、意見の相違も出てくるものだと思うが、私どもが第三者的に入ることで、早期に係争を解決し、パートナーとして共に成長できるよう支援していきたい」と話しました。

ただし、うまく和解にこぎつけるところまでもっていけるか、予断を許さない。

二つめに、独禁法の審査です。3月末までに終えられなければ、東芝は売却益を得られず、債務超過を解消できなければ上場廃止。そうなれば金融機関がどう出るかわかりません。ネックは、中国の審査ですよね。

「すでに各国にファイリングは済ませている。可及的に速やかに終わるように最大限に努力する」とは、杉本さんのコメントです。が、なお見通しは厳しい。

三つめに、今後の東芝メモリの成長戦略です。3次元NAND型フラッシュメモリは、サムスンが世界最大手で、東芝メモリが第2位につけています。サムスンに対抗するにあたって、「重要なのは、技術開発競争で後れをとらないこと」と、杉本さんはいいます。そのために優秀な人材の招聘にも言及した。

しかし、年間数千億円という投資が必要とされる半導体事業において、競争力を維持していくことは簡単ではない。その資金は、東芝メモリのキャッシュフローに加え、限界がある場合はベインが主体となって支援する。さらに、いろいろな資金調達手段もあると説明しましたが、順調に調達していけるのか。

課題は山積しているのです。

杉本さんは、会見中、何度も「コンソーシアム一丸となって」と口にしました。

もろもろの課題を乗り越えるために、本当に「一丸と」なることができるか。今後の東芝メモリの命運を握るのは、ベインであるのは、間違いありませんね。

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