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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

「第四次産業革命」で鉄道はどう変わるか ①

自動車と同じように、いま、鉄道も変わろうとしています。

IoTやAI、ビッグデータ、ロボットなど、最先端技術の急速な発展による「第四次産業革命」の到来とともに、社会や経済のパラダイムシフトが起きるのは間違いありません。自動運転技術の発展やカーシェアリングシステムの普及により自動車産業が一大転換期を迎えつつあるように、今後、さまざまな産業分野で劇的な変化が起きるのは想像に難くないでしょう。

鉄道産業もその例外ではないんですね。鉄道はどのように進化していくのでしょうか。少し前の話になりますが、11月29日~12月1日に幕張メッセで開催された「第5回鉄道技術展2017」で、JR東日本代表取締役副社長の川野邊修さんが行った基調講演「鉄道技術の現状と未来」には、そのヒントが隠されているように思います。

川野邊さんは、新幹線の高速化や車両技術、安全技術、メンテナンス技術など、日本の鉄道技術の発展を総括したうえで、技術開発が直面する課題について次のように語りました。

「私どもJR東日本だけではなく、いまの日本の環境を考えると、少子高齢化と人口減少という課題を乗り越えなければいけません。日本の人口は既にピークアウトして減少傾向に入り、20年後には生産年齢人口は2割減るといわれています。私ども鉄道会社にとって、人口が減るということは、2つの意味があります。一つは、お客様が減ってしまうということ。もう一つは、社員の労働力が減ってしまうということです。これら2つの課題をどのようにしてクリアしていくのかということが、これからの技術開発に求められる中身だと思います」

川野邊さんは、このように課題を明確化したうえで、今後の技術開発の方向性、すなわち鉄道における「第四次産業革命」への取り組みについて、以下のように論じました。

「世の中では、IoTやAIの進展、ビッグデータの活用による効率化や生産性の向上が叫ばれています。特に自動車の自動運転技術の進展は著しく、東京2020オリンピック・パラリンピックの開催までに自動運転タクシーが実現するという話もありますし、鉄道もウカウカしてはいられません。私どもは、2016年11月に策定した『技術革新中長期ビジョン』において、技術革新の方向性として、『安全・安心』『サービス&マーケティング』『オペレーション&メンテナンス』『エネルギー・環境』の4つの分野を掲げ、『モビリティ革命』に挑戦しています」

JR東日本が進める「モビリティ革命」とは、具体的には何を意味するのでしょうか。例えば、「安全・安心」については、IoTやAI、ビッグデータ、ロボットなどの最大限に活用し、踏切・ホームの安全性向上を図るなど、危険を予測してリスクを最小化し、顧客への影響を可能な限り少なくする。

「サービス&マーケティング」に関しては、異常発生時におけるオンデマンドで臨機応変な列車運行や二次交通との連携強化、チケッティング・システムの革新を図ることで、ドア・トゥ・ドアの移動がスムーズにできるモビリティサービスを提供し、顧客に鉄道を選択し続けてもらえるようにする。

一方「オペレーション&メンテナンス」は、自動運転の高度化や作業のロボット化を進め、社員の減少を見据えた仕事の仕組みをつくる。「エネルギー・環境」に関しては、蓄電池車両や水素を活用した車両の開発、再生可能エネルギー、省エネ・蓄エネ技術などを組み合わせて次期エネルギーネットワークを構築し、新たな鉄道エネルギーマネジメントを確立する――。

最先端技術の導入による鉄道技術の発展はもとより、自動車を含めたモビリティシステム全体の革新が目指されているといっていいでしょうね。「近い将来、20年後とはいわず、5年後ぐらいには実現されるんじゃないか」と川野邊さんが語ったことからも、“鉄道版・第四次産業革命”に向けたJR東日本の本気度といいますか、意気込みが透けて見えた気がしました。

さて、基調講演の終盤、川野邊さんは次のように語りました。

「『モビリティ革命』は、私どもJR東日本だけでは当然、実現できるものではありません。オープンイノベーションが絶対に必要でございますので、多くの他の鉄道事業者や国内外のメーカーの方々、大学の方々と一緒に力を合わせて『モビリティ革命』を進めていこう、知恵出しをしていこうということです。“イノベーション・エコシステム”を構築して、将来の『モビリティ革命』を実現していきたいと思います」

JR東日本は、アイデアソンやハッカソンの実施に加えて、研究開発センターの実験設備や試験車両を社外のプレーヤーの実証実験に活用してもらうなど、新たなかたちでの連携を構築し、社内外の知見を積極的に取り込んでいく方針なんですね。

「第四次産業革命」は、鉄道産業にも大きなインパクトを与えつつあります。この大波をチャンスとして生かし、新たな成長の礎とできるか否かは、内向き志向や自前主義を打破できるかどうかにかかっているということでしょうね。これは何も、鉄道産業に限った話ではないと思いますがね。

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