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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

オールジャパンで“水素社会”へ

3月5日、JXTGエネルギーや岩谷産業などエネルギー各社に加え、トヨタ、ホンダ、日産の自動車各社、さらに豊田通商や日本政策投資銀行の投資家を合わせた11社は、水素ステーションの本格整備を目的とした新会社「日本水素ステーションネットワーク合同会社(JHyM<ジェイハイム>)」を設立したと発表しました。新会社は水素ステーションを建設し、エネルギー会社に運営を委託する形で、水素ステーションを展開します。



※「ジェイハイム」設立を記念し手を組む関係者

発表には、トヨタ出身で「ジェイハイム」の代表社員職務執行者(社長)の菅原英喜さんほか、トヨタ副社長寺師茂樹さん、岩谷産業社長の谷本光博さんなど役員、経済産業省資源エネルギー庁省エネルギー・新エネルギー部長の髙科淳さんなど、関係者が出席しました。

経済産業省は、昨年12月26日に、関係閣僚会議決定として「水素基本戦略」を策定しました。ポイントは、2050年を視野に入れたビジョンと30年までの行動計画が策定されたことに加え、水素が再生可能エネルギーと並ぶ新たなエネルギーの選択肢として改めて提示されたことです。

世界的に、次世代環境車としてEV(電気自動車)が脚光を浴びていますが、長い目で見たとき、最終的な次世代車の本命は、水素をエネルギーとするFCV(燃料電池車)ともいわれています。日本はFCVの技術において、いま、世界最先端をいっている。したがって、足下ではEVに注力する一方で、将来を見据えてFCVの普及にも積極的に力を入れています。

さらに、2020年の東京五輪・パラリンピックです。政府は、成長戦略の一環に「水素社会の実現」を掲げ、五輪開催時には、水素社会のビジョンを国内外にアピールしたい考えです。これが、11社による大々的な事業が動き始めた背景にあるんですね。

さて、水素ステーションの拡充には、FCVの普及加速が不可欠です。「水素基本戦略」では、2020年代後半の水素ステーション事業の自立化に向け、モビリティの規制改革、技術開発、官民一体の整備を推進しています。

FCVは、現状の約2000台を20年に4万台まで普及させる。同時に現在約100か所程度の水素ステーションを、160か所まで増やすことを目指します。「ジェイハイム」では、今後4年間で80箇所の水素ステーションを建設し、FCV需要の最大化に向けて、戦略的な最適配置を行う予定です。

ちなみに「水素基本戦略」では、2030年までに水素ステーション900箇所、FCV80万台を普及させ、2050年には水素価格を現在の5分の1以下まで下げるなど、意欲的な目標が掲げられています。

FCV普及に向けた自動車会社の取り組みとしては、トヨタが14年にFCV「ミライ」を発売しました。同様に、ホンダは16年に「クラリティフューエルセル」を発売。日産も、13年にダイムラー・フォードと燃料電池システムの共同開発を開始し、市販化に向けた技術開発を継続しています。

「ジェイハイム」は、合同会社として水素ステーションの建設を主導的に行い、四大都市圏とそれを結ぶ地域から整備地域を広げ、47都道府県へ水素ステーションの整備を目指します。

「ジェイハイム」が画期的な点は、日本政策投資銀行や豊田通商などが金融投資家として「ジェイハイム」に出資し、インフラ事業者の初期投資を軽減する、世界初の試みを始めた点です。

「パリ協定の発効は脱炭素化への潮流を決定的なものとし、脱炭素に向けた投資は世界中で拡大し続けています。日本がその潮流をしっかりと捉え、世界を牽引していくためには、日本が世界のフロントランナーを走る、水素の活用がカギになると確信をしています」

と、世耕弘成経済産業大臣はビデオメッセージでコメントを寄せました。

課題は山積しています。FCVの低価格化、水素ステーションの建設費や水素価格の低減、消費者目線に立ったインフラの整備、水素エネルギーに対する社会の認知度向上……。

それでも、環境問題、エネルギーミックス、企業の長期的な投資戦略、いずれの点からみても水素には大きな可能性があり、取り組みを続けていく必要があります。まずは東京五輪に向けて、大きく一歩、歩みだしたということですね。

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