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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

ウーバー車両の死亡事故をどう見るか

18日、米ライドシェア最大手のウーバーテクノロジーズの自動運転車は、アリゾナ州で車道を横断中の歩行者をはねて死亡させる事故を起こしました。詳細は調査結果が待たれますが、現地時間は夜10時ごろで夜道だった。運転席には人が乗っていたものの、事故を防ぐことはできなかったんですね。

自動運転は、いま、自動車業界でもっとも熱視線を浴びる分野です。ウーバーについていえば、2015年から自動運転技術を開発中で、無人タクシー、また自動運転システムの外販を目指しています。アリゾナ州フェニックス、ペンシルベニア州ピッツバーグ、カリフォルニア州サンフランシスコ、カナダ・トロントで実証実験を行っている。一部では、一般人も自動運転タクシーを試すことができます。グーグル系のウェイモと激しい開発競争を繰り広げているんですね。

自動運転車には、事故ゼロのほか、多くのことが期待されています。過疎地における高齢者や子どもの送迎、渋滞解消、人手不足の解消などです。いまはまだ、その実現に向けて技術開発の段階です。事故によって、その開発が滞ることは避けなければなりません。

自動運転の死亡事故といえば、2016年、米テスラ車で自動運転モードを使用中に、トレーラーに衝突してドライバーが亡くなる事故がありました。このケースでは、ドライバーは自分のクルマで、クルマからの警告を自分の判断で無視し、事故死した。

一方、今回のケースは、事故を起こした車両はウーバーの実験車両です。一般道を実験走行中に、実験とは無関係の一般市民を巻き込んだ。事故ゼロを目指すはずの自動運転を開発するために、死亡事故が起きるという事態は、本来、あってはならないことです。

問題点は、いくつかあります。

まず、自動運転車両が、一般道を当たり前に走行していることについてです。米国は、新しい技術の採用に積極的です。ウーバーやウェイモだけでなく、IT大手やベンチャーなど、自動運転の実証実験を行う企業は山ほどあります。カリフォルニア州だけで、許可を受けて実験走行をしている企業は約50社あるといわれます。これまで死亡事故は起きていませんでしたが、接触事故などはたびたび起きている。

一方、日本では、一般道の自動運転の実証実験は、神奈川県藤沢市、宮城県仙台市、秋田県仙北市などで行われていますが、まだそれほど多くなく、企業の数も限られます。政府も企業も慎重で、そのおかげというべきか、過去、大きな事故は起きていない。

ただ、日米では、自動運転車の実験の規模や台数に、大きな差があります。これが、技術開発のスピードの差に直結するのは間違いありません。

米国において、企業が積極的に実験を行える背景には、自治体間の競争もあります。今回、事故が起きたアリゾナ州は、自動運転に関する規制が米国でもっとも緩いといわれます。ほとんど設けられていないといっていい。これは、自動運転技術の開発企業の誘致のためなんですね。自動運転技術の開発が盛んなカリフォルニア州でさえ、自動運転車の一般道の実験には許可が必要など、一定の規制や規則があります。ただ、誘致合戦の影響もあって、同州も規制緩和の動きで、今年4月からは無人運転の車両の実験を許可する方向です。

自動運転社会の到来に向けて、規制緩和は、方向性としては間違っていません。むろん、自動運転技術の開発は進めなければならない。しかし、競争の原理が先行して、前のめりになりすぎていないか、いま一度、冷静に判断する必要がありそうです。

事実として、自動ブレーキシステムなど運転支援システムの普及によって、交通事故は大幅に減少しています。自動運転車による1件の事故の裏側には、運転支援システムによって防がれた、多くの事故があります。つまり、自動運転技術を開発する意義は大きいことに、変わりはない。

さりながら、自動運転車による事故件数は、人間のドライバーが起こす事故件数より圧倒的に少ないにもかかわらず、ひとたび事故となれば、世論は一気に「規制せよ」の方向に動くのです。これは、避けられない。

自動運転車が町中を走り回る社会は、必ずきます。ただ、それには、社会的コンセンサスを築くことが必須です。一般市民が自動運転車を信頼できなければ、普及はありえない。

いまはまだ、自動運転技術は完全ではない。実験と検証を重ね、社会からの信頼を築きあげる段階なのです。技術を信頼しすぎ、拙速にことを進めると、今回のように、せっかく築かれつつある信頼が揺らぐことになりかねない。「急がば回れ」ではありませんが、万が一にも事故を起こさない慎重さを選ぶほうが、普及への近道かもしれません。

私は現在、月刊『潮』(潮出版社)に「自動車大戦争」を連載中です。4月号、5月号では自動運転を取り上げています。この機会に、ぜひご一読ください。

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