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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

日野とVWの提携は成功するか

日野自動車と独VW(フォルクスワーゲン)は、昨日、トラックやバスなどの商用車分野で、戦略的協力関係の構築に向けて合意したと発表しました。

日野社長の下義生さんは、会見の席上、「事業展開する『技術』、『商品』、『地域』の観点で幅広い協業の可能性を有する合意だと考えています」と、コメントしました。
VWトラック&バスCEOのアンドレアス・レンシュラーさんも、「『物流・交通ソリューションの研究』『既存および将来技術』『調達、販売・サービス』の領域において具体的な協業の検討を開始します」としました。


※日野自動車社長の下さん(左)とVWトラック&バスCEOのレンシュラーさん

ご存じのように、日野は、トヨタが50.1%出資する連結子会社です。トヨタとVWは、世界一を競うライバル関係にあるのは周知の通りです。なぜ、親同士がライバル関係にあるにもかかわらず、今回の提携合意となったのでしょうか。

まず、グローバル市場における、両社の位置づけです。VWは、08年にスウェーデンのスカニア、11年にドイツのMANを子会社化して、15年に、現在のVWトラック&バスが統括する形に再編しました。しかし、世界市場の主要プレーヤーを見てみると、首位は三菱ふそうを傘下にもつ独ダイムラーで、トラックの世界シェアは約10%です。2位以下は、中国の第一汽車、東風汽車、中国重型汽車、印タタと新興国企業が続き、VWはさらに下の9位で、シェアは約5%。日野にいたっては世界シェア13位です。

技術的にも、遅れをとっています。EVトラックの量産にこぎつけている三菱ふそうに対し、日野やVWは、まだEVトラックはつくっていない。つまり、独ダイムラーは技術、規模的に頭一つ抜けていて、中国メーカー各社は、国内需要増もあって販売台数を急激に伸ばしている。そのなかにあって、VWや日野は、存在感が薄いんですよね。

市場はどうか。乗用車と同じく、トラックやバスも、熾烈な技術開発競争が繰り広げられています。環境規制に対応するEV化に加え、ドライバー不足からニーズの高い自動運転技術も開発が急がれます。「100年に1度の大変革期」は、商用車も同じであり、技術開発の遅れは、致命傷になりかねません。

当然、日野の親会社であるトヨタやVWは、EVや自動運転の技術開発を行っています。日野は、トヨタがマツダやデンソーなどと進める「EV C. A. スピリット」にも参画している。

しかし、発表会の席上、日野自動車社長の下義生社長は、「商用車が直面しているさまざまな課題は、トヨタグループのなかにいるだけでは、解決は難しい部分もあります」とコメントしました。

人を運ぶ乗用車と、“道具”であるトラックなどの商用車とでは、さまざまな面で勝手が違う。例えば、バスの安全性の確保や、トラックの利用効率、隊列自動走行などの技術開発は、商用車ならではの観点がある。だからこそ、商用車メーカー同士の提携が必要なのです。

では、提携によって、両社にはどのようなメリットがあるでしょうか。「技術」についていえば、知見を持ち寄ることで、技術開発のスピードアップが期待できるほか、投資や開発コストも抑えられます。ハイブリッドやディーゼルエンジンなどの既存技術も、提携によって進化や相互利用が期待できます。

「地域」についていえば、日野はアジアに強い一方、欧州に弱い。一方のVWはその逆です。互いの販路を有効活用して、弱い地域を強化できます。さらに、「調達」のスケールメリットです。部品の共同調達によってコスト削減が期待できますよね。

問題は、資本関係までは踏み込まないという、ある意味で中途半端な状態のまま、両社がどこまで胸襟を開き、協力体制を構築するかでしょう。

下さんは、「日野自動車はトヨタ自動車の子会社であり、その関係は今後とも、まったく変わることはありません。トヨタグループとしての技術、人材育成などの強みは、大きくあります」と、発言しました。

しかし、乗用車と商用車は異なる、と強調しても、日野が、ある種の矛盾を内包することになるのは事実です。トヨタグループの強みを生かし、基盤技術も使いながら、トヨタの宿敵VWの商用車部門と、いかにシナジー効果を発揮するのか。

今後、両社は、両社トップを含むアライアンス委員会を立ち上げて、タイムリーな意思決定を行い、協業に向けてフィージビリティスタディを行うといいます。提携の成果によっては、商用車を発端とする自動車業界の再編が、一気に進むことになるかもしれませんね。

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