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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

三菱自動車の「内なる改革」はこれからだ

三菱自動車が業績回復に向けて順調な滑り出しを見せています。しかし、CEOの益子修さんは、決算会見の席上、「まだ少し時間をかけていく」として、慎重な姿勢をあくまでも崩しませんでした。

※三菱自動車CEOの益子修さん

三菱自動車が9日に発表した2017年度の連結決算は、売上高が前年同期比15%増の2兆1924億円、営業利益は同19倍の982億円でした。燃費不正問題の影響を受けて、前年度は1985億円の赤字だった当期損益は、1076億円の黒字と数字上はV字回復を果たしました。

業績回復の背景には、3つの要因があります。

一つは、クロスオーバーMPV「エクスパンダー」とSUV「エクリプスクロス」の順調な立ち上がりです。

二つめは、主力地域に位置付けるASEANが台数を牽引したことです。

三つめは、日産自動車の傘下に入り、ルノー・日産アライアンスの一員として、共同購買などのシナジーを含むコスト低減を進めたことです。

ところが、好調な決算にもかかわらず、益子さんの口から出たのは、厳しい言葉でした。
「V字回復というのは、単年度の回復ではなく、持続的成長を担保できる成長をいいます。その意味で、まだまだ信頼の回復に努めていかなければいけないし、新車は一つひとつ丁寧につくっていかなければいけない。アフターサービスにも課題があります。V字回復といえるのは、意識改革にメドがついたときです。それには、もう少し、時間をかけていかなければいけない」

ご存じのように、燃費不正問題で苦境に陥った三菱自動車は2016年10月、日産と資本提携し、日産の傘下で経営の立て直しに取り組んできました。開発、品質担当として、日産から送り込まれた山下光彦副社長は、仕組みや風土などの改革に着手し、再発防止の徹底を進めてきました。

実際、三菱自動車がここまで短期間に業績を回復することができたのは、日産を手本にし、日産に学ぶ、“外からの改革”が功を奏したことは指摘するまでもないでしょう。

ただし、益子さんがいうように、持続的成長にこぎつけるには、それだけでは不十分です。「“内からの改革”をしていかなければいけない」と、益子さんはいうんですね。

外の力をテコにした改革は重要ですが、それ以上に大事なのは“内なる改革”すなわち、意識改革です。しかし、“内なる改革”こそむずかしい。自分たちの課題を洗い出し、問題を突き詰め、自ら変わっていかなければならないからです。三菱自動車に限ったことではないでしょう。

目下、益子さんがめざしているのは、「できないことはできない」といえる会社です。

じつは、三菱自動車の燃費不正問題のウラには、「できない」といえない風土がありました。

「できないという現状を素直にいえて、それを受け止め、全員で解決に取り組む会社でなければいけないんですね」と、益子さんはいいます。

しかし、それは簡単ではない。上司になぜ、できないといえないのか。

「人間にはどうしても、自分をよく見せたい。会社で評価されたい。認めてもらいたいという欲があります。それが向上心につながるという良い面もありますが、現実をねじまげてしまうという悪い面もあります。また、上の人には部下からいいニュースを聞きたいという願望があります。これは、部下育成につながる良い面もありますが、透明性の高い会社を築いていくうえで、障害になる悪い面もあります。

物事にはそのように二面性があるなかで、良い面をできるわけ伸ばしていくために、他人を思いやる優しい気持ちを持った社員、正しい判断力を持った社員を一人でも多く育てることに力を注いでいきたいというのが、私の考え方です」

三菱自動車には、一度大きく傷ついた信頼を修復するという重要課題が残されています。その意味で、意識改革をはじめとする“内なる改革”は始まったばかりといえます。

“内なる改革”を経て、社会の信頼を回復するという大仕事は、じつは、業績回復よりむずかしいかもしれません。

中計2年目となる18年度は、益子さんにとっても、三菱自動車にとっても、これまでになく重要な年になりそうです。

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