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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

人生100年時代、トヨタの相談役・顧問制度見直しの波紋

日本株式会社の懸案が一つ、解消される流れができつつあります。

トヨタは、今年7月1日付で、現在60人いる相談役・顧問を、9人に削減します。これまでトヨタでは、副社長以上が退任すると相談役、専務以下は顧問に就くことが慣例でした。この慣例を廃すわけです。

パナソニックも今年2月、相談役の廃止を決定。従来、相談役は、社長経験者などが就任し、報酬もありましたが、これをやめます。顧問制度も見直し、顧問の肩書は、外部からの人材を社内で活用する際に使うようにします。

相談役や顧問制度の廃止といえば、思い浮かぶのはソニーです。2006年3月末で顧問制度を廃止し、当時45人いた顧問は全員退任しました。ソニーは、03年には委員会等設置会社に移行するなど、日本企業のなかでは先進的なコーポレートガバナンスを行っていますからね。現在ももちろん、相談役や顧問はいません。

もともと、相談役・顧問の制度は、会社法に規定のない、日本独特の制度です。「株主への説明責任を果たさない人が経営に影響を及ぼす」、つまり「院政」が懸念されるとして、とくに海外の投資家などから批判され、市場からの圧力が強まっていました。

東芝の不正会計が、それに拍車をかけた。これを受けて、政府と東証が検討し、今年から「コーポレートガバナンス・コードに関する報告書」に記載欄を設けて、相談役と顧問の氏名、業務内容、人数、処遇などの開示を促すことになったんですね。

まあ、トヨタとパナソニックが動けば、日本株式会社の相談役や顧問の廃止、削減は、大きな流れになっていくのは間違いないでしょう。ようやく日本のコーポレートガバナンスも、世界水準に追いつきつつあるともいえます。

もっとも、人生100年時代といわれる中で、役員経験者が、退任後も相談役や顧問として残り、会社と関係をもち続けたい気持ちは、わからないでもありません。しかし、現状を見る限り、弊害が多いのは確かです。

海外の企業に比べ、日本企業のサラリーマンは、かねて、会社に居場所を求め、“依存”してきました。とくに、高度経済成長期、企業に忠誠を誓い、企業戦士として働きまくって役員にまでのし上がったいまの時代のサラリーマン経営者は、自らの人生を会社に投影し、引退後も何かと経営に口を出したくなる。子離れできない親のように、いつまでもベタベタと世話を焼きたくなってしまうのでしょう。しかし、それでは、子どものためにはなりません。

さらにいえば、これだけ目まぐるしく環境が変化し、ビジネスのスピードも増している現在では、「院政」を敷いている場合ではない。さっさと若い経営者に経営を託すべきです。相談役に相談しても、参考になるどころか「老害」になりかねませんからね。

上場企業の役員ともなれば、プロフェッショナルとして割り切って、役職を退いたときにはスパッと会社からも退き、未練がましく執着しないことです。それが、会社や後輩のためです。ただ、ここであえていえば、日本のサラリーマン経営者の報酬は、欧米諸国と比べて多くない。その分、顧問として手厚くもてなしてきたという事情はある。

では、役員引退後、彼らは何をするべきか。経営のスキルやノウハウをもった、貴重な人材が、元気なうちにみすみす引退するのは、もったいない。

例えば、他社の社外取締役に就任するのはどうか。社外取締役市場は、いま、人材不足ですからね。あるいは、後継者に困る中小企業や、スタートアップの経営を助ける。自ら起業するのもいいでしょう。65歳で起業すれば、健康なら20年は仕事ができます。

かつて、ウシオ電機創業者で会長の牛尾治朗さんから聞いたことがありますが、米国では、大企業のトップは、引退後だんだんと小規模企業の経営者として務めて社会のお役に立つ。そして、最後はワイナリーのオーナーになるのが最高の引退後の過ごし方だというのです。確かに、これなら“理”にかなっていますよね。

いずれにせよ、人生100年時代、引退した役員さんには、社会のためにもうひと働きしてもらわなければいけないと思いますね。

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