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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

サントリーの巨額買収はなぜ成功したか

日本企業による海外M&Aが件数、金額ともに増加しています。人口減少による国内市場の縮小を受けて、海外に成長機会を求める動きが幅広い業種に広がっているんですね。


※サントリーの新浪剛史社長(2014年7月撮影)

ところが、海外M&Aは、期待された成果を上げられないなど、失敗例があとをたちません。東芝が、企業体力を超えた、ムリな海外M&Aによって、債務超過に陥ったのは、その一例ですね。
そうしたなか、海外M&Aの成功事例の一つといえるのが、サントリーによるビームの統合です。

サントリーホールディングスは2014年1月、160億ドル(約1兆6000億円)で米蒸留酒最大手「ビーム」を買収しました。当時、大型買収として話題になりました。

買収を仕掛けたのは、当時、サントリーの会長兼社長の佐治信忠氏です。狙いは、創業者の鳥井信治郎の「国産のウイスキーを世界に」という夢の実現でした。

当初、ビームとの統合はうまくいきませんでした。創業200年の老舗メーカーのビームは、伝統やこだわりが強く、サントリーの傘下に入ったからといって、容易には変われなかったからです。

過去のオランジーナの買収のように、買収先に任せておけばいいという考えは通用しませんでした。

サントリーは14年10月、ローソン会長だった新浪剛史氏を社長に招き、ビームの統合作業を率いる役目を委ねたんですね。

成功の理由は、大きく3つあります。一つは、新浪氏の手腕です。ビームサントリーのトップと互角にわたりあい、ときには強い姿勢で議論を戦わすなど、緊迫した場面もあったと聞きます。

二つめは、モノづくり企業同士、共通の価値観を持っていることです。もっといえば、両社は、モノづくりの現場を持っていました。

サントリーの山崎蒸溜所を何度か見学しましたが、貯蔵庫で、蒸溜されたモルト原酒を、さまざまな樽を使い分けて熟成するこだわりなど、現場には長年にわたって築かれたモノづくりのノウハウが蓄積されていますからね。

※サントリー山崎蒸溜所

200年の歴史を持つビームにも、山崎蒸溜所同様、モノづくりのノウハウが多数存在することは想像に難くありません。

3つめは、2015年に開校した人材育成プログラム「サントリー大学」の存在です。ビームの統合により、サントリーは世界で4万2000人が働く大組織になりました。企業理念や「やってみなはれ」精神、利益三分主義の考え方を、国内外のすべてのグループ会社が理解しなければ、グループのグローバルな発展はありません。

また、サントリーには、「水と生きる」という理念があります。水と自然を届ける企業として、水を育む環境を守ること、水のように柔軟に新しいテーマに挑戦し、新しい価値を創造するという考え方を国内外のすべてのグループ会社が共有するために、「サントリー大学」は重要な役割を果たしています。

ビームサントリーの社員は、「サントリー大学」で〝サントリースピリッツ〟を学びました。そのことが、両社の統合に大きな意味をもたらしたのは、指摘するまでもないでしょう。

2017年、共同開発した高級ジン「ROKU」が国内外で発売されました。また、日米の蒸溜所が連携して、バーボンの質を高めるなどの統合効果もあらわれています。

ビームとの統合は、確実に実を結びつつあります。ただし、誤算もあるんですね。

日本産ウイスキーの供給不足です。サントリーは、ビームの販路に「山崎」や「角」をのせ、世界に日本のウイスキーを売りたいと考えたのですが、日本産ウイスキーの供給不足が、思わぬリスクとなっているんですね。

したがって、M&Aの狙いの一つ、「国産のウイスキーを世界に」という夢は、実践できていません。この点は、戦略の再構築が求められますが、そうはいっても、サントリーのビーム買収はまずまずの成功例といっていいでしょう。

海外M&Aの失敗例があとをたたないなか、サントリーの事例には学ぶべき点が多くあります。

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