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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

ソニーの「ESG経営」とは何か?

ソニーは9月10日、「『持続的な社会価値の創出』に向けた取り組み」と題して、ESG説明会を開催しました。


※ソニー執行役常務の神戸司郎さん

説明会の冒頭、ソニー執行役常務の神戸司郎さんは、次のように語りました。

「5月に開催した経営方針説明会において、社長の吉田がスピーチの最後で、ソニーは、より人に近づくことで感動を生みだし、長期視点で、持続的な社会価値と高収益を創出する企業となるよう取り組むことを経営方針として述べました」

このビジョンを実現するために、強固なガバナンス(G)を基盤として、事業活動及び環境(E)、社会(S)に関わる取り組みを推進し、長期的な企業価値向上を目指す方針を打ち出したのですね。

昨今、ESG経営に対する注目は、世界中で高まる一方です。2016年、全世界のESG投資の運用額は2500兆円に上り、投資全体の4分の1を占めるといわれています。日本でも、世界最大の機関投資家といわれる「GPIF(年金積立管理運用独立行政法人)」がESGインデックスに基づいて一兆円規模の運用をスタートさせました。企業はESG経営に本腰を入れて取り組み、ビジネスの成長と社会的課題の解決を両立させなければ、投資家をはじめとするステークホルダーの信頼を得られなくなっているのですね。ソニーのESG説明会の背景には、投資環境の世界的な変化があるとみて間違いないでしょう。

もっとも、理念を唱えるだけなら、誰にでもできます。肝心なのは、その内容。当たり前ですが、どのようにしてESG経営を実現していくかです。ソニーのESG経営の中身についてみてみましょう。

まず、環境について。ソニーは2050年までの長期ビジョンとして、自社の事業活動と製品サイクルを通して「環境負荷ゼロ」の実現を目指す環境計画「Road to Zero(ロードトゥゼロ)」を掲げました。

さらに、環境負荷ゼロに向けた再生可能エネルギー導入を加速させるべく、この9月、国際NGOの「ザ・クライメイト・グループ」が推進する国際イニシアチブ「RE100」への加盟を発表。2040年までに、全世界111箇所の事業拠点で使用する電力を100%再生可能エネルギーで調達する目標を打ち出しました。

欧州の事業所ではすでに再生可能エネルギー100%化を達成しているものの、ソニーグループ全体の再エネ比率は現時点で5%程度といいます。2030年度までに北米や中国での再生可能エネルギーの導入を拡大。さらに、30年度以降、ソニーグループの電力消費の約8割を占める国内事業所への太陽光発電設備の導入、事業拠点間での電力融通の仕組みの構築を加速させ、2040年度再生エネルギー電力100%、さらに2050年環境負荷ゼロを実現する計画です。

もっとも、神戸さんによると、日本の再生エネルギー電力の調達コストは「欧米の数倍~数十倍」で、2040年までの再エネ比率100%の目標達成は容易なことではありません。ソニーの環境経営の真価が問われるといっていいでしょうね。

社会分野については、かねてより進めてきた人権の尊重、責任あるサプライチェーンの構築といった課題に加え、次世代を担う子供たちの育成、すなわち「教育」に力を入れる方針です。

もとより、ソニーは、前身の東京通信工業の設立趣意書で「国民科学知識の実際的啓蒙活動」を設立目的の一つに掲げ、1959年に小学校の理科教育への助成をスタート、また、72年にソニー教育財団を設立するなど、創業者の井深大さんが活躍していた時代から、教育分野に力を入れてきました。

これらの取り組みを基盤としながらも、今回、子どもの「教育格差」を新たな社会的課題として捉え、その是正に向けて挑戦する方針を打ち出しました。

目玉は、「感動体験プログラム」です。NPOと連携しながら、感動体験に触れる機会の少ない子供たちに向けて、ソニーの持っている科学や技術、工学、芸術、数学に関するコンテンツを提供する。具体的には、小学校の放課後時間にプログラミング教室やVR体験、アニメ制作、ミュージカル体験などのプログラムを実施し、すべての子どもたちの創造性や好奇心を育んでいくことを目標に掲げています。エレクトロニクスからエンターテインメント、金融に至る、多様なビジネスを展開しているソニーならではの社会への取り組みといっていいでしょうね。

ガバナンスについてはどうでしょうか。

ソニーは、1997年に執行役員制を導入したほか、98年に報酬、指名委員会を設置、2003年に委員会等設置会社に移行するなど、ガバナンス改革のトップランナーの一社として知られます。現在も取締役会の構成の多様化を進めており、メンバー12名のうち10名が社外/非業務執行役取締役。国籍や男女を問わず、さまざまな出身業界や専門分野でスキルを磨いた人材を社外取締役に選任しています。今後は、取締役会によるサイバーセキュリティリスク管理のモニタリングなど、取締役会の実効性アップとガバナンスのさらなる強化に向けた取り組みを進める方針といいます。

今後、多くの企業が「ESG経営」に挑戦するなかで、投資家の目は、ますます厳しくなっていくと思います。創業以来、連綿と築き上げてきた環境・社会・ガバナンスの取り組みを基盤として生かしながら、これまで以上に高い次元で、ビジネスの成長と社会的課題の解決の両立を実現できるかどうか。ビジネスはもとより、ESGのイノベーションを起こせるか否か。ソニーの長期的成長は、この点にかかっているといっていいでしょう。

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