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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

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「日本型経営」の行方を読む――小倉正男『日本の「時短」革命』PHP研究所 ほか

「日本型経営」の見直し論議が、このところ活発である。ついせんだってまで、高性能・高品質な商品を安く提供する〝良い会社〟として、世界中から賞賛されてきた日本企業が、ここにきてにわかに評価を下げ、〝良い会社〟、どころか、ルールを守らぬ〝悪い会社〟とのレッテルを貼られかねない雰囲気だ。いったい、なぜ、「日本型経営」の評価がこれほど大きく変わったのか。その背景には、さしあたって二つの状況変化があると考えられる。

一つは、激化するいっぽうの経済摩擦である。

対日貿易の赤字が一向に改善される様子がないことにイライラをつのらせる欧米諸国は、日本の資本主義のあり方そのものに、基本的疑問を抱きはじめた。日本企業の競争力の源泉である長時間労働、労働分配や株主への配当率の低さは、明らかに欧米の資本主義のルールに反するものであるし、日本市場の閉鎖性、不透明さ、不公正取引の横行は、欧米企業の参入を阻止するものだと、「日本型経営」のあり方に厳しい目を向け出し、露骨に非難しはじめたのである。

もう一つは、バブルの崩壊である。

バブル崩壊によって噴き出した証券・金融スキャンダルは、企業に対する世間の批判を一気に高めた。一連の不祥事の背景には、収益至上主義とシェア拡大主義があり、これこそ「日本型経営」がもたらす過当競争の実態だと、世間は断じたのである。

このように、国内外から「日本型経営」のあり方が厳しく問われるなかで、企業ばかりではなく、日本の政治、経済、ひいては日本という国家が21世紀に向けてどう変わらなければいけないのか。その指針を示すべくさまざまな方面から多数の著書が出版されている。その中から、以下6冊を紹介したい。

まず、小倉正男『日本の「時短」革命』(PHP研究所、850円)は、これからの日本が避けて通ることのできない「時短」という課題を社会・経済面、企業経営・労働面、人生・生活面の3つのアングルから平易に、しかも明快に説いている。

同書の中で著者は、「時短」こそ真の豊かさに通じる道であることを立証し、さらには日本の「時短」が海外に豊かさを輸出し、NIESにまで「時短」の波及効果を及ぼすものだという、新しい角度からの問題提起をしている。

長時間労働とともに欧米からの批判の的となっているのが、日本企業における社会貢献の未熟さである。気鋭のアメリカ人弁護士が、その日本企業の社会貢献の由来と発展経緯、仕組みと問題点を徹底研究し、結果をレポートしたのが、ナンシー・R・ロンドン『日本企業のフィランソロピー』(平山真一訳、TBSブリタニカ、1500円)である。一つの日本論としても、興味深いものがある。

日本企業はいま、待ったなしで「時短」にも「社会貢献」にも取り組まざるを得ない状況にあるのだが、現実には人手不足のなかでの不況という、これまで経験したこともない困難に直面している。

自由企業研究会『日本経済折衝成長への選択』(PHP研究所、1600円)は、このままいけば21世紀の日本は、慢性的な人手不足を解決できず、物価上昇・成長率低下・企業収益悪化という〝日本病〟におかされて衰亡の途を辿ると警告を発し、〝日本病〟を未然に防ぐための処方箋として、産業界、学界、官界、マスコミ界百数人の提言を集めている。

新たな成長モデルを必要としているのは、産業界だけではない。日本という国家そのものがいま、経済大国化の過程で失った国家としての尊厳を取り戻すための「改めての近代化」を迫られているのだと説くのは、佐和隆光『尊厳なき大国』(講談社、1400円)である。

同書で著者は、日本の社会・政治・経済システムをいかに改造し、それに向けて企業や市民は何に着手すべきか、8つの具体的かつ現実的な提言を試みている。「大国」の意味を改めて問い直すうえで、それらの提言は示唆に富んでいる。

しかしながら、いま大きな岐路に立っているのは日本だけではない。アメリカも、ヨーロッパも、世界中が歴史的大転換の渦中にある。太田博『崩れゆく技術大国』(サイマル出版会、1900円)は、ジャパンバッシングの陰に潜むアメリカの苦悩を、数々の衝撃的な資料によって浮き彫りにしている。

また、レスター・サロー『大接戦』(土屋尚彦訳、講談社、2000円)は、21世紀は日・米・欧接戦の時代だとして、ポスト冷戦時代の新しいルールによる勝者なき経済戦争のあり方を予測している。著者は、日本はその閉鎖性ゆえに21世紀の世界経済のリーダーシップをとるのは難しく、ヨーロッパが最も優位だと気になる指摘をしているが、今後の日本の革新は企業の「日本型経営」の見直しにかかっている。いかに時代を先取りし、新しい価値を創造していくか、その革新の精神をさまざまな角度から提言している。

 

小倉正男著『日本の「時短」革命』PHP研究所
ナンシー・R・ロンドン著『日本企業のフィランソロピー』平山真一訳、TBSブリタニカ
自由企業研究会著『日本経済折衝成長への選択』PHP研究所
佐和隆光著『尊厳なき大国』講談社
太田博著『崩れゆく技術大国』サイマル出版会
レスター・サロー著『大接戦』土屋尚彦訳、講談社
『小説すばる』(1992年10月号掲載)

 

 

 

 

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