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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

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怪紳士の生々しい実像――アンドリュー・ロス・ソーキン『リーマン・ショック・コンフィデンシャル』早川書房

日本経済に壊滅的な影響を与えた、2008年のリーマン・ショックからおよそ2年。いまだにその真相は明らかではない。いったい何が、どう間違って、未曾有の金融危機は発生したのか。

本書は、ニューヨークタイムズのトップ記者による、リーマン・ショックのドキュメンタリーである。ヘンリー・ポールソン財務長官やニューヨーク連邦準備銀行のティモシー・ガイトナー総裁のほか、リーマン・ブラザーズのリチャード・ファルド最高経営責任者(CEO)ら、ウォール街にうごめく金融機関のトップたちの動向が克明に描写されている。

文書記録のほか、メール、社内資料、発表資料、覚書などに加え、情報源秘匿を条件にした当事者への徹底的なインタビューなどをもとに、臨場感あふれるドキュメントに仕立てている。リーマン・ショックの背景を解説した書や、金融資本主義を批判した書とは異なり、人間の欲望や感情など内面にまで踏み込んで描写しているのが特徴だ。

迫りくる大恐慌の危機を前にして、なお己の欲望を捨てられず、生き残りを目指して権謀術数、駆け引きをするウォール街の紳士たち。

「私の目の黒いうちはこの会社は売らない」「もし私が死んだあとで売られたら、墓から手をのばしても阻止してやる」と豪語した、強気一辺倒のリーマン・ブラザーズのファルドは、次第に追い詰められていく。

万策尽きて、リーマンは、ついに終末を迎える。「(ファルドは)もう何日も眠っていない。ネクタイはほどけ、シャツはしわだらけだった。彼はベッドに腰をおろした。『終わりだ』悲しい声で言った。『完全に終わった』」

ウォール街は、〝強欲資本主義〟の総本山といわれる。世界をどん底に落とし入れた超肉食系の金融ビジネスに携わる怪紳士たちの、生々しいまでの実像を知るには、本書はもってこいである。

アンドリュー・ロス・ソーキン著 加々山卓朗訳『リーマン・ショック・コンフィデンシャル』
早川書房
共同通信社(2010年9月)

 

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