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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

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変貌する報道の内幕を読む――ロバート・ウィーナー『CNNの戦場』文藝春秋 ほか

現代の人々は、世界中で起こるニュースやトピックを、活字にかわってビジュアルで頭の中にインプットしている。

たとえば、80年代という時代を思い起こすとき、脳裏にはさまざまな映像がまるで走馬灯のように去来する。86年1月28日、アメリカのスペースシャトル「チャレンジャー」の打ち上げが失敗、乗組員7人全員が死亡した事故では、「チャレンジャー」が真っ赤な火の玉となって一瞬のうちに爆発し、強烈な火炎を放ちながら飛散した悲痛な映像が、いまも甦る。

また、同年2月のマルコス大統領が国外追放されたフィリピンの政変劇では、マラカニアン宮殿にはじめてカメラが入り、大統領夫妻の寝室や地下室の様子までもが、生の映像としてテレビに映し出された。89年の中国の天安門事件、そして同10月のベルリンの壁崩壊も、いまもなお私たちの記憶に新しい。

国内ニュースにおいても、 事情は同じである。84年4月に発生したグリコ・森永事件、週刊誌の連続報道が火付け役になったロス疑惑事件、翌85年6月の豊田商事永野会長刺殺事件、同8月の日航ジャンボ機墜落事故などでは、いずれも迫力ある映像報道を、私たちはテレビの前で固睡をのんで見守った。テレビは、このように日本列島ばかりか地球上で起こっている出来事のありさまを、私たちにリアルタイムで見せてくれる。

つまり、テレビに映し出される映像を通じて、私たちは、パジャマ姿でソファに横になりながら、時代の証言者や激動する世界の目撃者となることができるのである。

このことはまた、世界のどこでいつ何が起こっても、それを生の映像でリアルタイムで見たいという人々の欲求をますます増大させ、結果として報道するジャーナリストの世界も大きく変えた。とりわけ、通信衛星や衛星放送の普及によって、海外報道のあり方は一変した。最近、次々と出版されるテレビメディアをめぐる著作は、こうした現状に対する各方面からの問題提起にほかならない。

91年1月に起こった湾岸戦争は、テレビ画面で実況中継された戦争として、CNNの名を一挙に高めたが、その際のCNNの報道ぶりはテレビ時代のニュースのスタイルを象徴するものであった。ロバート・ウィーナー『CNNの戦場』(文藝春秋、1200円)は、バグダッドでの90年8月から翌年1月までの取材活動を記録した、まさに「戦争をライヴで中継した男たち」のドキュメントである。

戦時下の敵の首都から報道し続けるという画期的な活躍で、世界を驚かせたピーター・アーネットをはじめとするCNN取材班の人間模様は、ジャーナリズム精神とは何かについて一つの答えを示している。

ロバート・ゴールドバーグ、ジェラルド・J・ゴールドバーグ『トップキャスターたちの闘い』(NTT出版、2300円)は、アメリカの三大ネット ワークの実態を、それぞれの有名キャスターたちの人間臭い闘いを追いながら描き出している。

彼らのあくなき闘いが、独裁政権を打倒し、いっぽうで戦争をゲームのように見せてしまう。私たちは、テレビがつくる「奇妙な世界」に生きているのである。そのことを、同書のふんだんなエピソードは端的に認識させてくれる。

技術の進歩によって国際報道の現場が様変わりする中で、その役割を変えているのはキャスターだけではない。テレビ特派員の存在も大きく変わりつつある。経験だけでなく、国際衛星回線事情など技術的な知識、さらには優れた話者としての素養が、いま彼らには求められている。渡辺光一『テレビ国際報道』(岩波新書、580円)は、そのあたりの事情を、著者自らの豊富な体験を通して教えてくれる。

テレビ現場だけでなく、テレビメディアそのものに対する問題提起も、さまざまな視点から行われている。たとえば、ますます激化するテレビメディア戦争は、これからどうなっていくのか。田原総一朗 『メディア王国の野望』(文藝春秋、1100円)は、多チャンネル化で混迷を深めるメディアの世界の内幕を、徹底取材によって明らかにしようとして いる。既存テレビの生き残り戦略、巨大資本の情報産業への進出、巨大化する映像ソフトビジネス、21世紀のテレビを展望するうえで、同書は多くの問題意識を喚起してくれる。

津田正夫『テレビジャーナリズムの現在』(現代書館、2266円)は、視聴者の側に立って、人々とテレビのかかわり方を再構築する必要性を説いている。また、山崎浩一『リアルタイムズ』(河出書房新社、1600円)は、テレビの見方を考え直すきっかけを与えてくれる。30代後半のコラムニストである著者は、「テレビで考える」ことを身をもって試すことで、テレビと現代人との関係性に新天地を見いだそうとしている。

私たちはもはや、時間、距離、言葉を超え、未知の結びつきを生み出すテレビというメディアなしには生きられない。だからこそ、私たちは、その裏側にも、その未来にも、真撃な目を向ける必要があるといえる。

ロバート・ウィーナー著『CNNの戦場』文藝春秋
ロバート・ゴールドバーグ、ジェラルド・J・ゴールドバーグ著『トップキャスターたちの闘い』
NTT出版
渡辺光一著『テレビ国際報道』岩波新書
田原総一朗著『メディア王国の野望』文藝春秋
津田正夫著『テレビジャーナリズムの現在』現代書館
『小説すばる』(1992年6月号掲載)

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