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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

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江上剛『ごっつい奴――浪花の夢の繁盛記』講談社

現代は、閉塞状況にある。景気がよくなる展望もないから、給料が上がらない。生活は苦しくなる一方ときている。人々は暗い表情だ。

思い起こせば、そんな日本にも、貧しいながらエネルギーに満ちた明るい時代があった。終戦直後である。

敗戦ショックから立ち上がるように、焼け跡の中から、さまざまなビジネスが生まれた。第一次ベンチャーブームである。ホンダやソニーもそうである。本書は、モノづくりではなく、商いのベンチャー物語だ。舞台は、大阪梅田の焼け跡に突如出現した闇市だ。テンポのよい会話を軸に、話は小気味よく展開する。主人公は、呉の鎮守府から復員した、丹波生まれの明るく、元気で、喧嘩がめっぽう強い、岡本丑松(うしまつ)である。

丑松は、戦友が営む定食屋に転がり込み、知り合った浮浪者の寅雄と千代丸を子分に、石鹸づくりを始め、ひと山当てる。その後、横流しされた米軍放出物資を売る、パリ商会を始める。

丑松のほか、ヤクザの親分、特攻くずれの金貸し、フィクサーもどきの元校長先生、闇市の赤ヒゲ先生など、ひと癖もふた癖もある人物が登場し、縦横無尽に活躍するが、彼らの謳歌した自由はほんの一瞬だった。時代が落ち着くにつれて、闇市に対する警察の取り締まりが厳しくなり、闇市に生きる人々は、転身を迫られる。丑松は、リスクを恐れず、時代の変化に立ち向かった。危ない橋を幾つもわたり、昭和23年、ついに梅田に「みなと茶屋」を立ち上げ、喫茶店や食堂、寿司屋などの入った5階建てのビルを建てる。

昨今は、「おもてなし」などと、いささかヤワなコトバが流行っているが、丑松はもっと直接的だ。「商いの基本は人を喜ばすことや」と叫ぶのだ。なるほど、これが浪花商人道かと納得する。

少々野蛮だが、エネルギーに満ちあふれた、愛すべきキャラクターの丑松の強烈な生き方は、いまの日本人にもっとも欠けているところである。

江上剛『ごっつい奴――浪花の夢の繁盛記』講談社
『潮』(2010年4月号掲載)

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