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日系米人百名余を取材――古森義久『遙かなニッポン』講談社文庫
本書は、1世から4世までの日系アメリカ人を全米に取材したドキュメントである。明治や大正時代に生まれた1世から、日本をまったく知らない4世まで、100人を超える日系アメリカ人にインタビューし、まとめられた労作である。
著者の古森義久氏は、結論として、日系人はそう遠くない将来、ニッポンの血を共有する集団としては消えていくのではないか、という予測をしている。
たとえば、本土の日系人の結婚をみると、最近の相手は非日系が5割を超えたという。「日系以外の結婚が90パーセントになるのも、そう遠くない、純粋な日本の血をひくという意味での日系人集団はやがて消えると思います」という、カリフォルニア大学のハリー・キタノ教授の言葉を、古森氏は紹介しているのだ。
なにしろ、日系人は数が少ない。全米人口のわずか0・3パーセントである。さらに、日本からの後続の移民が事実上、ストップした。10年前にアジア系アメリカ人では、日系人は中国系、フィリピン系に抜かれて、韓国系にも迫られているという。
「そしてなによりも日系人は戦争という異常な状況下で、みずからのニッポンを削ぎ落とすことをいわば強制された。祖先の国と、自分の国と、文化や伝統まで過酷な二者択一を迫られた民族は他に例がない」古森氏はそう記している。
もともと彼は、「ドキュメントを書くにあたっては、日系米人を日本人としてみるのは間違い、とする起点から歩み出した。……だが、日系アメリカ人を考える過程ではどうしても日本人とはなにか、を考えさせられた」と、あとがきに書いている。
私は、この10年間、離婚してアメリカで一人暮らしている戦争花嫁をずっと取材してきたが、やはり血の問題について、考えさせられたものだ。血とは何か、祖国とは何か、本書はそうした私の中のモヤモヤとした疑問に、なんらかの解答を与えてくれたように思う。
古森義久著『遙かなニッポン』講談社文庫
『週刊読書人』(1987年10月12日掲載)