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ジェームス・ハンター『サーバント・リーダー』海と月社
リーダーになりたくない、という若いビジネスマンが増えているという。聞こえてくるのは、「目立ちたくない」「責任をとるのはいやだ」「面倒だ」という声だ。
たしかに、何万人もの社員を率いる大企業トップの責任は重い。解決しなければならない難題は山積みだ。能力と資質を備えた人でなければ、トップリーダーは務まらない。しかし、リーダーは企業トップに限らず、社会、地域、家庭、サークルなどのあらゆる場面で求められる。人々はいかにリーダーシップを発揮すればいいか、頭を悩ませることになる。
本書の主人公、板ガラス工場のゼネラルマネジャーも、職場や家庭でうまく人間関係を築けず、悩みが深い。部下との関係、妻との関係、子供たちとの関係をいかに修復するか。そのカギは、リーダーシップにかかっている。修道院での修養会で、人との関係性を見つめ直すことを決意する。
権威と権力はどうちがうか。権威あるリーダーとはどういう人か。ピラミッド型は限界か。奉仕と犠牲とはどういうことか。リーダーにとっての優しさとは何か。人の行為は変えられるか。他者を愛することで自らを成長させられるか。喜びの報酬とは何か――。
彼は、修養会での対話を通じて学んでいく。本書は、リーダーシップとは、「共通の利益になると見なされた目標に向かって熱心に働くよう、人々に影響を与える技能」であると、定義づけている。さらに、リーダーの資質として、本書は、「信頼できる」「献身的」「話をよく聞く」「人に責任を持たせる」「敬意をもって人に接する」「人を励ます」「人の価値を認める」などをあげている。
聖書の言葉が引用されている箇所も多く、キリスト教の教えが土台にあり、ややとっつきにくいところもあるが、本書は対話形式で読みやすく構成されているので、案外、すんなりと腹に落ちる。
この本を通して、若い人たちにリーダーのあり方について学んでほしいと思う。
ジェームズ・ハンター著 高山祥子訳『サーバント・リーダー』海と月社
『潮』(2010年10月号掲載)