伊東 伊豆に癒される 雄大な自然に包まれ 新鮮な料理を食す旅
伊豆の玄関といえば、伊東である。
新宿駅を午前9時35分に出発した「スーパービュー踊り子53号」に乗って、伊東駅に降り立ったのは11時15分。中高年5人組は、いつものようにレンタカーを仮、熱川へ急いだ。行列ができる店「錦」で、昼食をとる魂胆である。
もはや「食」にしか楽しみを見出せない、悲しい(?)中高年組は、地魚、磯物、貝類と聞いただけで、道すがら、タラリタラリとよだれを流すありさまだ。
「奥の細道」ならぬ「食の太道」へまっしぐらである。
「その店は、いったい、何がおいしいの?」と、「現代の魯山人」ことZさん。「一種の海鮮丼だね」と、ハンドルを握るSさんはいう。「丼といえば、牛丼がなくなったねえ」「豚丼食べた?」「食べた、食べた。でも牛丼も早く復活してほしいねえ」――などと、食い物談義をするうちに、目的の店に。
「うにさざえ丼」、「磯納豆丼」、「鯵ののたたき丼」と、めいめい好みにしたがって注文。目を見張ったのは、なんといっても「鯵のたたき丼」だ。別名「鯵たたきてんこ盛り」というだけあって、たっぷり乗りのかかったご飯の上に、鯵のたたきがエベレストもかくばかりとてんこ盛りになっている。標高10センチは十分にある。なにしろ、丼のヘリより、さらに上に屹立しているのだ。
ところが、いざ、撮影しようとすると、鯵のエベレストが、ピサの斜塔のごとく、かすかに右横に傾いたのだ。すると、カウンター越しに、ご主人から「ちょっと待った」と声がかかった。鯵のエベレストは、ご主人の手で、あらためてあくまで高く、天に上るがごとく、整形されたのである。
さすが伊豆だけあって、とにかく、鯵は新鮮で、申し分なし。丼はもとより、「いか刺しのバカ旨食い」にいたっては、「食の太道」まっしぐらの中高年組は全員、脱帽。いか刺しが一杯、切り刻まれた上に、浅葱とおろし生姜がたっぷりのっている。大きな深鉢に入ったそれを、5人で二杯も平らげたのである。
伊豆とくれば、もう一つは、海である。出かけた先は、城ヶ崎海岸だ。天城山と大室山の噴火で、溶岩が海岸に流出し、大小無数の岬がつくられ、独特の海岸美が楽しめる。「まえかど」、「こづり」、「おおづり」、「ふたまた」、「ばったり」、「もずがね」、「かどかけ」、「墓下」――などと、岬には、それぞれ奇妙な名前がつけられている。
「なんじゃ、これは」と、一言居士のQさん。「江戸時代から続くぼら漁の漁師がつけた名前だそうだ。『ばったり』は、旅人がばったり倒れたところからつけられたそうだぞ」
「じゃあ、『いがいが根』はなんじゃ。これは食べ物と関係があるのかな」と、知的体育会系のYさん。「そこまでは、わしは知らん」とQさん。
“海の遊園地”城ヶ崎遊覧船
そういえば、近くにぼら納屋が残っている。茅葺の納屋は、寛永3年(1626年)に紀伊家が建築し、その後、数回増改築されたというが、現在、磯料理の店になっている。ぼら漁は、徳川幕府の保護のもと、紀伊家直営で、操業されたという。
さて、城ヶ崎遊覧船に乗って、海からその景色を見ることにする。波とうねりがあって、揺れましたな。19トンの遊覧船は、木の葉の如く……というのは、大げさにしても、スリル満点。遊園地のジェットコースターか、絶叫マシンかと思うほど、急降下の連続。「キャーッ」と、後ろの席のご婦人軍団は、騒いでいるが、およそ、彼女たちの騒ぎ方には恐怖感がなさそうだ。「海の遊園地だわね」とおっしゃっているのだから。
その点、中高年組は、「俺は、この程度じゃあ、酔わないぞ」とばかり、必死になって耐えている様子。あらためて、女性の強さと、男性の弱さを見せつけられましたな。
ぼら納屋から奇岩怪石の連なる城ヶ崎海岸のハイキングコースを、伊豆のポスターにしばしば登場する、門脇つり橋まで歩く。海からの高さ23メートル、長さ48メートル。絶景とは、こういうことをいうのでしょうな。
川奈名物のアワビステーキ
伊東市内の東海館を見学した昭和生まれの中高年5人組は、「明治どころか、いまや、昭和は遠くなりにけり……でげすな」と、大いに感慨にふけった。
東海館は、昭和3年に開業した木造3階建ての温泉旅館だ。木材商が始めた温泉旅館だけに、杉や檜などの高級木材がふんだんに使われた、美しい和風建築である。平成9年に廃業跡、伊東市に寄贈されて、現在、公開されているのだ。
磨き抜かれた廊下、手すりのついた木の階段、障子、畳。中高年にしてみれば、こうした木造旅館は、身近な存在だった。それが、見世物になるとは……。それだけ馬齢を重ねたわけで……と、中高年は、最大の弱点、すなわち年齢を意識させられたのである。
夜は、川奈ホテルのメインダイニングで、正式の晩餐だ。「シェフのおすすめディナー」といって、川奈名物のアワビのステーキ、和牛のステーキがメイン。あと、キングサーモンのスモーク、ホタテのプロバンス風、コンソメスープ、さらに和風の鯛ご飯まで付くなど、豪華絢爛である。
「アワビは、くろを使っています。ウニソースで、ぜひご賞味ください」
と、川奈ホテルの調理長(洋食)の土屋晃さん。このウニソースでいただいたアワビステーキの美味にはしびれましたな。「アワビは貝付きのまま一度、鉄板で焼いた後、再び身を取り出して焼いています」というが、レアの焼加減が最高。舌の上で、表面の温かさと芯の部分の冷たさが交互に踊り、それにウニソースが伴奏をつけて、もう、悩殺されるようなうまさだ。
伊東市内の「松鮨」も、一発ガーンとかまされるおいしさだった。さすが伊豆である。店主は、天城湯ヶ島にわさび畑を持ち、毎日の湯ヶ島通いが日課という。わさびの葉で巻いたわさび巻きは、絶品中の絶品でした。