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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

旅・夢風景

片山修が旅について語る。
日本各地の写真とコラムによる「旅夢風景」

世界に誇れる魅力は何か 歴史に浸って考えた

世界遺産に押し寄せる異国の人波に思わず「いいね!」

「インバウンド(訪日外国人旅行客)効 果、は、ここにもーの印象です。 「ご存じのように、「日光の社寺」は、 一九九九年に世界文化遺産に登録された。 東照宮の陽明門など国宝九棟、重要文化 財九四棟を数える。日本を代表する観光 地だ。しかも、今年は、御祭神すなわち 家康公が日光東照宮に鎮座されて四百年 を迎える。内外からの観光客を集めて、 その賑わいは、いまや想像を絶するもの があるのだ。 「外国人の間で、東照宮の人気は、ここ 数年で一気に盛り上がってきました」と、 日光殿堂案内共同組合の堂者引き・加藤孟さんはいう。

かといって、台湾や中国本土あるいは 欧米の観光客と一緒になって、東照宮を 見学して歩いても、不思議なことに何の違和感もない。時代の雰囲気というべきか。はたまた〝観光立国日本〟の姿を垣間見る思いというべきか。「いいね」をクリックしたい気持ちでしたな。

見どころは社寺と湖にあらず 脈々と続く老舗に奥の深さを見る

東照宮のあとは、日光の門前町をブラブラ歩きだ。四百年の歴史を誇るだけに、もう何代も続く老舗が多い。昼食をいただいた老舗割烹「髙井家」は、創業が文化二(一八〇五)年で、主人の髙井祥之さんは九代目だ。日光名物の湯葉料理がドンドン出てくる。なかでも、圧巻は湯葉の刺身。これが、実にウマイっ。ほんの少し、わさび醤油をつけて口に入れると、まろやかな食感、ひやりとした冷たさが舌に心地いい。大豆風味と、ほのかな甘み。クセになります。

というわけで、私は、「髙井家」に湯波を卸している御膳湯波「元祖海老屋長造」を訪ね、生湯波を買い求めた。主人の森慧一さんは七代目だ。「湯波の刺身は、日光の名物で、祖父が開発しました。朝つくったのを昼に食すなど、新鮮であればあるほど、美味しいのです」そう語る。

お腹がふくれると、妙に食べたくなるのが甘いものですよね。甘いとくれば、定番ともいうべき、日光名物の羊羹を創業明治二八年の「三ツ山羊羹本舗」で求める。三代目の主人の三ツ山一明さんによれば、なんと水羊羹は「元々、冬のもの」なんだそうだ。

栃木県の「日光ブランド」から 世界に誇る「日本ブランド」へ

名物といえば、日光霧降高原チロリン 村の天然氷「氷屋徳次郎」を訪ねた。主 人の山本雄一郎さんは四代目。天然氷づ くりは、聞きしにまさる難しさだ。近くの山から湧水を、氷をつくる池に引き込む。風が吹けば落ち葉が池に落ちる。雪が降れば氷の上に積もる。そのたびに掃 除をする。徹夜の作業になることもある。天気予報を聞き、稜線の雲の具合を見な がら、氷の切り出しのタイミングをはか る……。「日本一固い天然氷をつくるた めです。日光天然氷は、日光の文化です」 と、山本さん。日光のかき氷がキメの細かさと、優しさで当代一と称されるのは当然か。

さて、お土産に生湯波とくれば、家でちょっと一杯やりたくなるではありませんか。そこで走る先は明治時代の酒蔵がそのまま残る「片山酒造」だ。大量生産大量消費時代に背を向けて、手づくりの酒づくりを特徴としている。絞り機にしてからが、機械式ではなく、〝佐瀬式〟 といって、小分けにした酒袋を槽と呼ばれる木枠に並べて積み上げ、いちばん上に重石をのせて絞り出す方式だ。ゆっくりと上から圧力をかけることで雑味のない旨みが勝った原酒ができあがる。しかも、殺菌処理をしない。その絞りたての「原酒柏盛」を買い求めた。「お酒は、この絞りたてが一番美味しいんですよ」と、六代目主人の片山貴之さんはいうのだった。

歴史と文化と、味の日光は、まったく結構でしたな。


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