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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

旅・夢風景

片山修が旅について語る。
日本各地の写真とコラムによる「旅夢風景」

浮世の雑事はひとまず忘れ めざすは信州・北斎ゆかりの地

新・長野駅を起点に向かうは老舗の蔵元

長野の〝善光寺さん〟にお参りしたあと、精進おとしと称し、〝善光寺にいちばん近い蔵元〟で、純米大吟醸をグビッとあおる。心なしか景色まで変わって見えてきた。そう、まるで北斎の浮世絵気分。中高年の旅のスタートだ。

JR長野駅には、北陸新幹線「かがやき」に乗って、1時間有余で到着した。2年半前の長野から北陸への延伸を機に、駅前周辺が整備されたと聞く。6年前に長野を訪ねたときと、どう変わったか。駅前に出ると、すっかり変貌。目についたのが、新装なった駅ビル「MIDORI長野」の外観だ。3階から広場に向かってひさしがせり出し、12本の木の柱が堂々と支えている。その名も〝門前回廊〟は、 新しい長野のランドマークである。

精進おとしに出かけたのは、「善光寺外苑・西之門・よしのや」だ。「うちは初代の藤井藤右衛門が善光寺大本願尼公上人様にお供して京都から、江戸時代の初期の寛永4(1637)年にこちらに 移ってきたんです」と、380年の歴史を誇る「よしのや」社長で16代目の藤井信太郎さんは語る。白壁の蔵に囲まれた素敵な中庭のレストランで昼食。まあ、一杯というので、グビグビと盃を傾けた次第ですな。いや、それではすまず、試飲コーナーにいって、 すすめ上手の藤井さんにいわれるままに、「西之門」だ「雲山」だと、さらにグビグビとやりました。

国際的な葛飾北斎ブームで外国人客が押し寄せる小布施町

善光寺外苑から、北斎と栗で、観光地として全国区の知名度を誇る小布施町へ。 江戸生まれの北斎と信州の小布施がなぜ、結びつくのか。「地元の豪農商の髙井鴻山が北斎の最大の理解者であり支援者で あったからなんですね」と、高井鴻山記前出の金田功子さん。文人でもあった鴻山は、江戸に遊学し、北斎ら文人墨客と知り合い、地元に招いた。北斎が初めて小布施を訪れたのは、天保2(1842)年。80歳をこえていた。以来、合計4回にわたって小布施を訪れ、長逗留して多くの絵を残した。「北斎ブームは国際的で、外国人がいっぱいやってきます。有名な祭屋台に描かれた男浪図などは、今年5月から開かれている大英博物館の展覧会に貸し出しました」と、北斎館常務理事の竹内隆さんはいう。

前出の金子功子さんの話によると、「北斎にとって、小布施は憩いの場だっ たんですね。地元の人と酒を酌み交わしたり、子供たちに凧の絵を描いてやったりしていた」という。北斎は小布施にいる間、毎朝起きるとまず必ず「日新除魔図」すなわち獅子を描いた。それを描き終えないと、お客がやってきても会わなかったというエピソードが残っているそうだ。髙井鴻山記念館には、その日付入りの「日新除魔図」が何点か展示されている。

宮大工の手による木造4階建て渋温泉「金具屋」は創業260年

小布施の栗といえば、室町時代から栽培されており、名産品だ。ただ、栗だけでなく地域の魅力を発信しようと、町は 「小布施町振興公社」を設立した。

小布施町は、もともと年間降水量が少 なく、日照時間が長くて、寒暖の差が大 きい。おかげで色付きがよく、甘味のある果物が育つというので、リンゴ、ぶどう、さくらんぼなどを同振興公社でジャムなどに加工し、〝小布施屋〟ブランドとして、売り出し中だ。1次の農業、2次の製造業、3次の小売業とを掛け合わせた、いま流行の「農業の6次産業化」の現場
といったらいいでしょうかね。

宿は、湯田中渋温泉郷の「金具屋」に取った。2003年に国の登録有形文化財に認 定された木造4階建て温泉旅館で、創業は江戸中期、260年の歴史を誇る老舗だ。

「屋号の『金具屋』の由来は、もともと鍛冶屋をしていて宿屋に商売替えをしたからなんですね」と、筑波大出身の若旦那で、 9代目の西山和樹さんは説明する。西山さんによると、1927年に長野電鉄の湯田中駅が完成した際、「これか観光客が多くやってくる」というので、6代目が地元宮大工に4階建ての木造旅館をつくらせたという。宿泊の気分は、もう中高年にピッタリ、“昭和のロマン、にドップリとつかり、生き返る思いがしました。

翌日は、北志賀高原へ足を延ばした。世界最大級の「竜王ロープウェイ」はなんと166人も乗れるという。小型のバ スくらいはあろうかというゴンドラだ。「 8分間の空中散歩を楽しみながら、竜王らは、山の山頂へ。急斜面に建てられた標髙1770mのテラスに立つと、条件がそろえば、雲海が視界を覆い尽くし、まさに雲の海に浮かぶ幻想的な世界が体験でき  る。あいにく当日はピーカンでしたが、 一見渡す限り晴れ渡る「下界」には長野市街から小布施までが広がり、はるかの遠くには、日本アルプスの山並みが連なり、日常を忘れさせてくれる貴重な眺めでした。

 

 

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