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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

旅・夢風景

片山修が旅について語る。
日本各地の写真とコラムによる「旅夢風景」

小田原・箱根湯本 花と文化を愉しむ旅1

JR新宿駅から「湘南新宿ライン」の特快に揺られて、1時間12分。小田原駅に着くと、初夏の風が心地よい。そのまま駅レンタカーを借りる。
 まずは、難攻不落を誇った小田原城へ。天守閣にのぼると、相模湾が一望だ。秀吉の小田原城攻めで有名な一夜城が築かれた笠懸山(現・石垣山)は、眼の前ではないか。こりゃ、城を守る北条氏直は強烈なプレッシャーを受けたハズだ。和議を申し立てたのはむべなるかな……と、納得しましたね。
odawara1小田原は、尾崎一雄、北村透谷、牧野信一、川崎長太郎など、作家を生んだ地としても知られる。城の近くの小田原文学館を訪ねる。
「小田原ゆかりの谷崎潤一郎や、坂口安吾などの作家の資料も展示しています」
 と、小田原市教育委員会市立図書館担当館長補佐の鈴木健さん。文学館の建物は、もともと明治の元勲、田中光顕伯爵の別邸。このスペイン風の建物を見るだけでも楽しい。


 昼食は、老舗料理店『だるま』でとる。明治26年の創業だ。網元で、代々主人が魚市場の仕入れをするから、魚介類は文句なしにウマイッ。大エビやホタテ、相模湾の魚がたっぷりと乗った「こだわり天重」は、イチオシだ。せっかくだからと、小田原港に出向き、干物や蒲鉾が並ぶ小田原さかなセンターをのぞく。港の突堤には、大きな小田原提灯をかたどった灯台がのんびりと立つ。長閑だ。

odawadra2-6次に、箱根へ向かう。アジサイの季節であるからには、素通りできないのが〝アジサイ寺〟こと『阿弥陀寺』だ。15種類、約3000株のアジサイが、参道から境内までを埋め尽くしている。実は、このアジサイ、すべて、現住職の水野賢世さん(66歳)が、昭和40年代から延々と植え続けたものだという。

「阿弥陀寺は、皇女和宮の香華院として、ご位牌をお祀りしております。檀家のいない寺なので、寺の復興策としてアジサイを植え始めたのです」


 ベンチャー精神旺盛な水野さんは、58歳から琵琶を練習。いまや名人の域。琵琶歌「皇女和宮」の語りを聞いた。山寺に琵琶の音色が弁々と悲しくも響く。聞き惚れましたな。
 宿は、箱根湯本の『ホテル河鹿荘』。特別料理「鮑のステーキ」を注文。温泉につかると、日頃の疲れが吹き飛びました。

小学館『週刊ポスト』 2009年7月10日号 掲載

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