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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

旅・夢風景

片山修が旅について語る。
日本各地の写真とコラムによる「旅夢風景」

新発田・月岡 ほろ酔い加減で湯につかりゃ、浮き世の垢も流れゆく

「美肌と長寿」で名高い月岡温泉は、新潟の奥座敷である。
「石油を掘っていたら、お湯が湧き出てきたんです。それが、月岡温泉の発祥ですね」
 そう語るのは、白玉の湯「泉慶」女将、橋本代野子さん。

tsukioka1ご存じのように、新潟県は、秋田県とともに、数少ない〝産油県〟だ。大正6年、石油掘削中の井戸から、石油ならぬ、お湯が湧出したのが、月岡温泉の始まり。つまり、のどかな田園風景の中に、忽然と温泉街が現れるわけについて、「なるほど」と、納得した次第である。

「ただ、『美肌と長寿』といっても、『長寿』は別として、『美肌』はお呼びでないぞな」と、ぶつぶついいながら、「泉慶」の庭園大浴場“月鏡”に浸かる。ウーン、少し温めながら、ジワジワと、体の芯が温まってくる。身も心も軽くなってくるではないか。まさしく、温泉の効用。「長寿」とは、かくのごとく心身を軽やかにし、ジワジワ、しぶとく生きることかな、と推察する。
 「白玉の湯」は「全国屈指の硫黄含有量」とありましたが、ホント、硫黄特有の卵の黄身を凝縮したような臭いが鼻を直撃ましたな。温泉はこれでなくてはね。

tsukioka4温泉を浴びた後は、お酒でしょう。そして、新潟とくれば、日本酒ですわな。月岡温泉は、5年前、中越地震の影響で、湯治客がこなくなった。存亡の危機だ。何とかしなければという必死の思いから、女将さんたちが知恵をしぼって生まれたのが、「越後の酒天湯子」というイベントだ。
「500円のワンコインで、新潟の銘酒5杯の利き酒ができるという催しです」
 と、説明してくれたのは、「清風苑」女将、樋口智子さん。このイベントに参加する旅館や商店で、ワンコイン500円を出すと、5枚つづりのチケットがもらえ、利き酒用のお猪口がつく。新潟の蔵元97軒が参加しているので、新潟産の5種類のお酒が楽しめるのだ。風呂上りに、一杯、いや5杯楽しみましたな。

小学館『週刊ポスト』 2009年12月4日号 掲載

 

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