秋田・角館 武家屋敷と城跡角館・秋田を巡る 歴史の探訪
秋田新幹線「こまち」で、3時間ちょっと、角館駅に着いた。
角館とくれば、武家屋敷である。中高年5人組は、ぞろぞろと武家屋敷町に出かける。黒板塀が続く六間道路は、いかにも広い。町並みの鬱蒼とした樹木。静かな佇まいに、一同なにやら侍になった気分。
「電柱が無いのが、よろしいですな」と、一言多い社会批判派の中高年Qさん。「映画『たそがれ清兵衛』の主人公の井口清兵衛は、海坂藩の貧乏侍。こんな立派なお屋敷に住んでいなかったなあ」と、つねに知識をひけらかす教養派の中高年のXさん。「確か、下級武士の住まいは、別の場所にあったぞ」と、全国の町歩きが自慢の漂泊派中高年Zさん。さすがZさん、調べると、清兵衛と同じように芝垣で囲まれた簡素な杉皮葺の下級武士の住居が、ちゃんと残っている。
訪ねたのは、百五十万石の佐竹北家の家臣だった石黒家。さすが清兵衛とは違って、威風堂々たる門構えで、黒板塀が連なる。「屋敷は、文化6年(1809年)に建造されました。200年近くたっています。このお座敷は、12畳半あります。部屋の大きさや天井の高さは、侍の格式によって、違っていたようです。これだけの広さを持った武家屋敷は、他には現在、角館には残っていません」と、案内をしてくださった12代目のご当主、石黒直次さんはいう。
「侍もサラリーマンだな。でも俺が、今度買った郊外のマイホームには、12畳半の座敷なんかないもんな」と、会社は己の成果を正しく評価してくれないと万年不満派中高年のPさん。
石黒家の一族には、この町で初めて種痘を接種した医師もいたとかで、土蔵には「解体新書」の初版本が並べられている。
囲炉裏にあたり
家伝味噌を堪能
次に向かったのが、嘉永6年創業の安藤醸造元。味噌醤油漬物の老舗だ。
応対してくださったのは、容色の衰えを感じさせない安藤商店副社長、すなわち女将さんの安藤恭子さん。
「この赤レンガ造りの蔵は、明治24年に立てられました。何でも異人さんを呼んで、レンガの作り方や焼き方を習ったそうです。この蔵座敷は、24畳あります」
「エーッ、昔は、豊かだったですなぁ。ウーン、その点、われらは……」と、マイホームを購入したばかりの万年不満派は、またもやブツブツ。
「いや、今と昔を比べるのは不遜。女性が電車の中で化粧をする世の中じゃ。何事も、昔が良かったに決まっている」と断言するのは社会批判派。「それが、今のお話と、何の関係あるの」と万年不満派はムッ。おじさんたちの会話は、いつも支離滅裂である。
明治15年に建てられた母屋の板敷の間で、昔懐かしい囲炉裏にあたりながら、地元産の豆を使った家伝味噌の話を聞く。「昔の味噌で、香りまろやかなんです」と、副社長さんはいう。「俺は以前、このお店から味噌を送ってもらったことがあるよ。懐かしい味噌の味だった」と、どこへいっても、やたら買い漁るお土産派中高年のHさん。
その話に、「そうか、じゃあ、俺も送るかな」と、残りの4人も、みやげ物売り場に突進する。みんな、いうことはてんでんばらばらにもかかわらず、やることは同じなのである。
角館での昼食は、創作料理で全国に名を知られた「一行樹」でいただく。「豆乳の吉野葛」、「本鮪とアヴォカドのタルタル、ポン酢のヌーベ」、「メヌケ(魚)のバジルソース」、「トリュフの茶碗蒸し」、「真鴨、フォアグラ、砂肝のテリーヌ」、「短角牛のタルタルのカツサラダ」、「出汁のジュレとおひたし」「ずわい蟹茶づけ」「クレームブリュレ」……といった料理。いや、満腹。
総工費約3億円の久保田城表門
秋田市に移動。翌朝は、おじさんたちが大好きな司馬遼太郎風の歴史探訪に出かける。現秋田市長の佐竹敬久氏は、角館町の佐竹北家の出身で、「若殿」と呼ばれて育ったという。
最初に訪れたのは、分家ではなく、それこそ本家本元の秋田藩主佐竹義宣の居城・久保田城跡の千秋公園。新羅三郎義光を祖とする源氏の名門佐竹氏が、慶長7年(1602年)秋田に入部してから一昨年で、ちょうど400年。それを記念して再建された久保田城表門。総工費は約3億円というが、なるほど、この木造二階建ての茅葺きの櫓門は、貫禄十分、何か気品さえ漂う。中高年たちは、門の派手さに圧倒されてポカン。
「佐竹家は、戦国武将の中でも、清和源氏から連綿として続いている唯一の大名ですね」
と、教えてくださったのは、秋田市立佐竹資料館の学芸員の中田好彦さん。「秋田藩は、戊辰戦争のとき、なぜ、奥羽列藩同盟に参加せず、薩長にくみしたのですか」と、教養派が質問。
「日本国学の四大人の一人である平田篤胤は、秋田の出身です。
彼自身、勤皇か佐幕かはハッキリといったわけではないですが、彼の弟子たちは、西洋に眼を向けて、新しい国を作っていこうと考えていた。ですから、彼の門弟が奥羽列藩同盟の仙台からやってきた使者を惨殺したんです。このため官軍についたんですね」
一同、「なるほど」と納得する。秋田市制100周年を記念して千秋公園内に再建された御隅櫓を見学。最上階の展望室からは、秋田市内を一望する。
次に、すぐ隣の平野政吉美術館へ。エコール・ド・パリの一員として世界的な画家、藤田嗣治の世界一巨大な絵「秋田の行事」に一同、「すごいね」と、素直に感動したのである。