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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

旅・夢風景

片山修が旅について語る。
日本各地の写真とコラムによる「旅夢風景」

軽井沢 歴史、文化、自然、究極の「癒し空間」 軽井沢に遊ぶ

karuizawa3 「軽井沢」という地名は、中高年にとって、特別の響きを持つ。

天皇陛下と皇后陛下が運命的な出会いをされたロマンスの地であり、別荘が立ち並ぶ、憧れの避暑地。早い話が、手の届かない夢の超高級リゾート地が軽井沢であった。
「しかし」
 と、中高年4人組知的体育会系のYさんは、しみじみと語るのだ。
「いまや、われわれ、オジサンもこうして軽井沢に気軽に出かけられる。しかも、長野新幹線に乗れば、わずか1時間そこそこで着く。隔世の感ですな」
「確かに。新幹線ができる前は、軽井沢は上野から特急で2時間近くかかりましたわな。碓氷峠の峠越えが懐かしいわ」
 というのは、自称教養派のXさん。
「いや、碓氷峠といえば、峠の茶屋の釜飯を思い出すな」
 と、美食派のZさん。
「あの陶器製の釜が、なぜか捨てられなくて、いつも家に持って帰ったもんだよね」
 と、相槌を打つのはカメラマンのGさんだ。
 映画「ALWAYS 3丁目の夕日」に涙したという中高年4人組は、いつものように懐旧談に花咲かせる。
そうこうするうちに、「あさま517号」は、午後12時02分に軽井沢駅に滑り込んだ。

文人に愛されたクラシックホテル


karuizawa1 軽井沢の宿泊先は、「せっかくきたのだから、少し贅沢にユックリしよう」というYさんの提案で、奮発して「万平ホテル」に決めている。この万平ホテルは、中高年たちが学生時代に軽井沢に貧乏旅行した際、逆立ちしても泊まれなかった高級リゾートホテルである。

 もともと軽井沢を訪れる外国人のための専用ホテルとして、明治27年に創業された由緒あるホテル。その後、多くの文化人に愛され、いまなおクラシックな雰囲気が漂う。ホテルに一歩足を踏み入れると、なぜか、心がホットするような温かさが感じられるのだ。
 日頃、すべてが忙しげで、殺伐としたシティホテルに出入りしている中高年たちは、
そのゆったりとした時間が流れる雰囲気に、たちまち心がマッサージされる。

karuizawa13「私どもは、“ホテルは人なり、サービスは人なり”をモットーにしております。いわば、お客様に“心を商品”として差し上げるつもりで、サービスさせていただいています」

 そう語るのは、笑顔を絶やさない万平ホテル支配人の山田俊彦さんだ。
 そういえば、JR東日本の女性限定旅行商品「めぐり姫」の日帰りプランを利用して、東京からすでに30回も万平ホテルを訪れる二人連れのキャリアウーマンがいると、同ホテル料飲部ダイニングマネージャの永井世冶さんから聞いた。
 彼女たちは、いつも駅から40分ほど散歩を楽しみながらやってきて、専用ランチコースを堪能しているそうだ。
「まあ、日常の時間を忘れて、ぶらりとちょっと贅沢をする……。余裕のないオジサンたちとは違いますな」


karuizawa4軽井沢にこだわりの「食」あり


 軽井沢は、さすが高級別荘地だけに「食」が充実している。訪ねたのは、カラマツ林の中の別荘を改造したレストラン「エンボカ」である。
オーナーシェフの今井正さんは現役の建築家で、コテージを自ら設計して建て、ハムや燻製品を手づくりして、別荘ライフを楽しんでいるうち、お店を開くことになったという。軽井沢ストーリーそのものだ。
karuizawa12「ウーン、癒されますなあ」と、ご機嫌の中高年たちは、ワインを傾ける。

イベリコ豚の極上生ハム、高原野菜のシーザーサラダ、薪釜で焼いたピザ、そしてカラマツと清澄な空気。
 そういえば、軽井沢駅前のそば屋「弦庵」の主人も、東京で写植屋さんをしていたが、趣味が高じてお店を開いた軽井沢ストーリーの口だ。味で勝負というだけに、そばは、甘み、香り、歯触りとも、申し分なしでしたな。

童心にかえるミュージアム


karuizawa11 軽井沢といえば、散歩が欠かせない。ただでさえ、見るからに運動不足の中高年は、この際、「歩くべし」という知的体育会系のYさんの号令一下、散策をスタート。

 軽井沢銀座を軽く流し、ショー記念礼拝堂へ。「いや、ずいぶんお店が変わったねえ。昔は……」と、すぐに“過去比較形”の感想が漏れるところが、オジサンの限界か。
 次回、女房に媚びて、軽井沢にラブラブでくる予定というYさん。「そのときのために、お店探しをせねば」と、目の色を変えて、歩き回る。
「意外と穴場」と全員が思ったのが、カラマツ林の中のおとぎの国に迷い込んだような「エルツおもちゃ博物館」と「軽井沢絵本の森美術館」である。ワルぶるオジサンたちも、おもわず童心にかえるのだ。充実した展示品に脱帽である。
 
karuizawa2Yさん日ごろの罪滅ぼしか?大枚をはずみ、ドイツ製の可愛いイースターラビットの音楽隊のおもちゃ3体を土産に買い込む。

「今度、女房と軽井沢にきて、別のイースターラビットを買って、おもちゃの音楽隊を結成するとしよう」
 これぞ、中高年の「心の旅」ですな。

小学館『週刊ポスト』 2006年5月26日号 掲載

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