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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

旅・夢風景

片山修が旅について語る。
日本各地の写真とコラムによる「旅夢風景」

浜街道 “潮目の海”がはぐくむ多彩な海の恵みうつくしま浜街道

hamakaidou8 福島県は、太平洋側から浜通り、中通り、会津の三地方に分かれている。今回、訪ねたのは、浜通りである。


 JR東京駅午前9時32分発の東北新幹線「やまびこ47号」に乗り、午前11時10分、JR福島駅に着いた。
JR福島駅を降りた中高年5人組は、いつものようにJR駅レンタカー「トレン太くん」を借りて、浜通りに向かった。

hamakaidou15 車で約1時間半、目の前に美しい松川浦の景観が広がる。松川浦は、海水と真水が混合した汽水の潟湖だ。細く伸びた砂州が入江を囲み、大小の島がぽつりぽつりと浦内に点在している。浦の北側に太平洋への出口があって、そこに陸と砂州をつなぐ松川浦大橋が架かっている。一帯は松川浦県立自然公園だ。

 海面にイカダが浮いているのを見た、知的体育系のYさんが聞く。
「海苔の養殖ですか」
「そうです。海苔のほか、アサリの養殖も盛んで、潮干狩りや船釣りも楽しめます。このあたりの旅館の数もいまや30軒以上になりました」
 松川浦観光旅館組合の久田和夫さんはいう。
「冬の目玉は、何ですか」と、教養派のQさんがたずねると、
「冬は、カニです」
 と、久田さんはキッパリ。
「エッ、福島でカニ?」
 中高年5人組は、みんなで顔を見合わせた。福島県がカニの産地とは聞いたことがないからだ。

hamakaidou14エビ、カニの甲殻類が無類に好きなグルメのⅩさんは、途端に目を輝かす。カニときて、福井出身のYさんが黙っているはずがない。「越前ガニですか」と聞いた。

「そう。1月になると、天然のズワイガニがたくさん水揚げされるんです」
 ご存じのように、ズワイガニは福井県で越前ガニ、島根県で松葉ガニと呼ばれている。
「それから、毛ガニもとれます」
「まさか・・・」
全員絶句する。
「毛ガニは北海道でしょう」
 と、Qさん。
「相馬の海は、海の幸にとても恵まれているんですよ。まだあまり知られていないだけです」
 と、久田さんは答える。

hamakaidou13福島県沖合いには、異なる2つの海流のぶつかる「潮目」があるのだ。ひとつはフィリピン沖を起源とする暖かく、流れの強い、そして数多くの魚が生息する黒潮。もう一方はベーリング海やオホーツク海を起源とする、冷たいが栄養資源の豊富な親潮だ。二つの海流がぶつかる、つまり、「潮目の海」は、海の幸の宝庫なのだ。

 となれば、福島県産のズワイガニと毛ガニにご当地を表わすブランド名が必要ではないだろうかと、中高年たちはお節介を承知で考える。例えば、ズワイは〝松川浦ガニ〟、毛ガニは〝福島ガニ〟とか・・・。

妙見信仰と「相馬野馬追」


hamakaidou10 松川浦から相馬中村神社へ。よく知られているように、相馬市は毎年7月になると、「相馬野馬追」で盛り上がる。騎馬隊約500余騎が勇壮な甲冑競馬や神旗争奪戦を行う祭りだ。そのルーツは、相馬藩の始祖とされる平将門にまで遡るという。

「昔は野馬追で捕えた馬を、〝妙見さま〟に奉納したのです。妙見さまは、相馬家と我々の守護神なんですね」
 相馬中村神社宮司の田代誠信さんの説明だ。
 国道6号線、通称〝陸前浜街道〟を南下し
、相馬市からいわき市へ向かう。
 訪れたのは、ふくしま海洋科学館「アクアマリンふくしま」。建物はクジラを思わせる不思議なデザインで、遠くからでも目立つ。
「アクアマリンふくしまは、〝ショー〟を行っていません。人気の魚がいるわけでもありません。主に福島県沖合いに生息する身近な魚を飼育しています。私たちは、魚たちの生息域にできるだけ近い世界を再現しているんです」
 アクアマリンふくしま企画経営課長の佐藤祐昭さんは力説する。
 4階の「ふくしまの川と沿岸」の展示を見て、その言葉に納得する。川の上流から下流、汽水域にすむさまざまな魚が周辺の自然環境を含めて紹介されている。
 たとえば、里山に流れる小川を再現。まるで植物園のようだ。
「こんなきれいな小川は、昔はよく遊んだけど、今はめったに見られないわな」
 と、田舎育ちのYさんは、感慨にふける。
「陽の光が入ってくるね」
 水族館は全館をガラスでおおっているから、自然光が館内にそのまま入ってくる。
「太陽光に当たり、外気も取り入れているので、植物はちゃんと紅葉をするんですよ」(佐藤さん)
まさに〝環境水族館〟だ。

群れになって泳ぐキンメモドキ

「おおお!」
 ド迫力に、全員、思わず声をあげる。キンメモドキが群れをなし、巨大な塊となって水槽の中を右往左往する。
「まるでダイバーになった気持ち」とⅩさんがいえば、「そう、これ、本当のモグリのダイバーね」とYさん。
 この中高年の冗談、わかっていただけるでしょうか。hamakaidou6

「捕食者のサメを水槽に入れているので、海中と同じように、群れをつくって泳ぎます。弱い魚はそうやって身を守り、対抗しているのです」
 佐藤さんの説明である。
 夜は、「割烹一平」で、小名浜にあがったアンコウ鍋をつっつく。翌日の昼は、小名浜のすし屋「雷鮨」でいただいた。 

小学館『週刊ポスト』 2007年1月26日号 掲載

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