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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

サントリー新浪新社長に、もの申す?

サントリーホールディングスは、7月1日、
新浪剛史さんが、10月1日付で社長に就く人事を
ホテルオークラで発表しました。
少し気づいたことを述べてみたいと思います。

現社長の佐治信忠さんは、新浪さんについて、こう語りました。
「声もでかいし、はきはきしている。
若くてバイタリティもある。
115歳で老化が進んでいるサントリーに強い南風を吹かせて欲しい」
新浪さんに対するエールですね。

新浪さんのミッションは、サントリーの海外事業を成功に導くことです。
新浪さんの手腕が試されるわけです。
なにしろ、人口減少社会の日本では、成長がのぞめませんからね。
記者会見での二人に対する質疑も、
もっぱらグローバルビジネスの話に終始したのは当然ですよね。
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ただ、忘れてならないポイントは、
サントリーが極めて文化色の強い会社であるということです。
サントリーが売っているのは、ウィスキー、ビール、ワインなど
イメージ先行型商品です。
自動車や家電など、ハードを売る会社とは違います。
ウィスキーにしても、ビールにしても、ワインにしても、
背後に、文化の香りが漂う商品です。

実際、ウィスキーほど、五感で味わう商品はないといっていい。
だが故に、商品のバックグラウンドが重要になってくる。
サントリーのウィスキーを飲むということは、
あえていうならば、サントリーの文化イメージを味わうことにほかならない。
かりに、酒類の営業活動が、ドブ板営業であったとしても……ですよ。

その意味で、サントリーはこれまで文化事業を大切にしてきました。
「サントリーホール」、「サントリー美術館」、「サントリー文化財団」
といったように、音楽、美術、学術などの文化装置をいまも抱えています。

これらサントリーの文化は、二代目社長の佐治敬三さんが築き上げてきた、
サントリーの大事な財産です。
「お金がないなら、文化事業をやめたらいいじゃないか」
という意見をはねのけ、サントリーらしさを保ち続けるために、
文化事業を育ててきました。ユニークな企業です。

そこには、ウィスキーやビールという嗜好性の高い商品を売るには、
愛される企業でなければいけないという
佐治敬三さんの強い思いがあったのは、間違いありません。
これがブランド形成に役立っているのは、指摘するまでもありません。

サントリーが真のグローバル企業となるためにも、
同じことがいえると思います。
グローバル市場で頑張るためにも、
世界から愛される企業でなければいけない。

リーダーが明るくて元気なことや、行動力があることは、もとより大切です。
とくに、やや上品なサントリー社員にバーバリズムを吹き込み、
アグレッシブな組織にするのは重要でしょう。
「進出先においても、サントリーという会社が好きだという人に
働いてもらえるような会社でありたい」
と、新浪さんは語りました。
世界の人たちに愛される会社であることは、グローバル化の必須条件です。
それには、商品の特性からいっても、文化の香りが欠かせません。

今日の記者会見では、元気で行動的な新浪さんのイメージが
前面に出ていて、それはそれでよかったと思います。
新浪さんは果たして、サントリーお得意の文化路線を継承できるのか。
「大丈夫かな」と、一抹の不安が頭をよぎったものです。
もっとも、それは杞憂かもしれません。

新浪さんは、席上、こんなエピソードを紹介しました。
「私は、3・11のとき、サントリーが流したCMのことを忘れることができません。
あれは、すばらしかった。
それは、サントリーが社会にとってなくてはならない会社であることを強く印象づけました」
私は、この新浪さんの言葉を聞いて、
「ウン、大丈夫だろう」と思い直しました。

じつは、私も、あれには感動しました。
3・11後のサントリーCM「上を向いて歩こう」編、
「見上げてごらん夜の星を」編で、
演歌、フォークソング、Jポップ、オペラ歌手など、
さまざまな歌手が、「上を向いて歩こう……」
の短いフレーズを歌いました。それを流し続けました。
あれでどれだけ、東北の被災地の人々、
そして日本中が元気づけられたことか。
感動のコマーシャルでした。出色でした。

新浪さんが、あのCMに感動する感性をもっている限り、
サントリー文化の継承は心配ないだろうと、少し安心した次第です。

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