(夫)仕事以外に生きがいがない。
定年後の自由な時間をどのように使えばいいのかわからない。
(妻)仕事一筋で生きてきた無趣味の夫が、ひたすら家に居座っている。ウザい―――。
団塊世代の大量退職を迎えた今日、
こうしたボヤキは切実になりつつありますわね。
ある意味で、趣味は、高齢化時代の社会問題といっていいかもしれません。
ただ、だからといって、若いころから老後に備えて趣味を持て、
という意見が出てきたのには、唖然としました。
日経新聞電子版の連載「20代から始める バラ色老後のデザイン術」のことです。
同連載は、マネープランの視点から、“バラ色の老後”に向けた生活設計について、
若い人たちに指南するコーナーです。
9月は、「趣味」がテーマとして取り上げられています。
曰く、趣味は生活を豊かにする可能性がある一方、お金の問題でもある。
大人の趣味はマネープランのなかに織り込み、日常の生活費や、
子育てや住宅購入資金準備、老後の資金準備などを視野におきつつ、
趣味の予算を確保することが大切だと論じたうえで、
「1カ月に一万円以上かかる」趣味は、せいぜい2つに抑えるとともに、
「1カ月に一万円はかからない」趣味をバランスよく楽しむなど、
「趣味のリストラ」を行うことが大切だと指南します。
おこづかいの範囲内で遊べということは理解できますが、
バラ色の老後を送るために、
若いころから計画的に趣味を持つべしという主張には、
正直、違和感がありますね。
そもそも、趣味は、「持て」といわれて、持つものではありませんよね。
自発的に興味・関心を持ち、好きになることが、スタートだと思います。
また、趣味といえども、それなりにお金をかけて、
真剣に取り組まなくては上達もしないし、本当に楽しむことはできません。
「趣味は計画的に」というのは半ば筋違いですし、
誰かに指南してもらわなくては、
若者が趣味の一つも見付けられないなんて、世も末だと思いましたよ。
もっとも、現代の若者が仕事に追われ、
無趣味なのかといえば、そんなことはないと思います。
例えば、私の事務所の30代のスタッフは、
「仕事が趣味です」とうそぶきながらも、
休みをみつけては「釣り」「ハイキング」に「クルマ」で繰り出し、
ご自慢の「デジタル一眼レフ」で写真を撮りまくるといいます。
また、仕事帰りに「マンガ」喫茶で深夜まで長居をするのもざら。
たまに早く帰ると、これまたご自慢の「ピュアオーディオ」で音楽を聞きながら、
読書に没頭するという。
放蕩三昧というか、ご家族のことが思いやられるというか、
その精力をちょっとは仕事に生かせというか、なんというか…
このスタッフは遊びほうけているためか、休み明けによく風邪をひく。
「体調管理がなっとらん!もっとコントロールせい」と叱ると、
「いやー、趣味も仕事のうちですよ。
釣りやハイキングは地理感覚を磨くのにうってつけ。
写真をやってれば、取材のときにカメラマンが
何をどう撮ろうとしてるかわかるでしょう。レンズを見れば一発ですよ。
活字世代にはわからないかもしれませんが、
マンガは強力な競合メディアですから、
ベンチマークしないわけにはいきませんよね。
それに、音楽は文章のリズムを磨くのにもってこいじゃないですか。
仕事力は趣味で磨くもんじゃないですかね」と、とぼける。
ロクに仕事もしないクセに、よういいますわ。
彼にこそ「趣味のリストラ」が必要なのは間違いありませんよね。
ただ、大目にみれば、彼がいうことにも一理あると思います。
つまり、仕事と趣味は、突き詰めれば突き詰めるほど、
大きな相乗効果を生みだすこともあるということでしょうな。
思い浮かぶのは、本田宗一郎さんです。
宗一郎さんは、猛烈に働き、猛烈に遊んだといわれています。
ほめられたものではありませんが、夜な夜な芸者遊びにふけったあげく、
酔っ払い運転をし、芸者ともども
天竜川に転落したなどの逸話も残っていますよね。
また、「女遊びもしないヤツに、設計はやらせておけない。
おぬしは、いったい月給を何に使っているんだ」と、
若手社員をどやすこともあったといいます。
宗一郎さんの仕事に賭ける情熱は、遊び抜きにはあり得なかった。
イノベーションと趣味は不即不離の関係にあるといっても、
過言ではないと思いますね。
そもそも、若者が老後のことまで考える必要があるのでしょうか。
計画通りの生き方が、幸せな人生なのでしょうか……
私は、後先考えず、思いっきり自由に生きろといいたい。
まあ、これも、われわれ世代のボヤキでしょうかね。