電機業界を中心に、
脱・年功序列賃金制度に向けた動きが加速しています。
この動き、“本物”になるでしょうか。
日立製作所は26日、新たな人事賃金制度を発表しました。
これまで、日立の管理職の賃金は、
約7割が年齢や勤続年数などに応じて決まる「職能給」、
残りの約3割がポストに応じて定額支給される「職位給」によって
構成されていましたが、これを廃止。
10月からは、「職能給」と「職位給」の一本化により、
賃金の全てが成果ベースとなり、年功の要素がなくなります。
具体的には、「責任の重さ」や「求められる革新性」、
「必要とされる知識のレベル」などの要素をもとに、
管理職の等級を7段階に区分する。
等級ごとに定められた基本的な賃金に、
各人があらかじめ定めた個人目標の達成度を加味して、
実際の支払額を決定する仕組みです。
年齢や勤続年数にかかわらず、
ポストや成果に応じて賃金が決まるわけですね。
若手や勤続年数の短い外国人、中途入社の社員も、
成果さえ出せば、高い報酬が得られる制度といっていいでしょう。
日立は、新制度を世界共通の制度として位置付け、
順次、国内外のグループ会社・約950社に導入する計画です。
「脱・年功序列」を進めるのは、じつは、日立だけではありません。
例えば、パナソニックは、10月、従来の職能資格制度を改め、
管理職を対象に、現在担っている役割の大きさを
処遇のベースにする新制度を導入します。
また、ソニーは15年4月から、
全社員を対象として、年功序列を完全に廃止し、
現在の役割を評価する「ジョブグレード制度」を導入する計画です。
これにより、20歳代の課長誕生も可能になるといいます。
なぜ、いま、大手企業は、
「脱・年功序列」に力を入れていれるのでしょうか。
まず、日本企業には、
いまや年功序列型賃金制度を維持する余裕がありません。
それから、年功序列型賃金制度では、
若年層とりわけ30代の賃金が抑えられます。
この年代は個人の消費意欲が低く、景気回復の足を引っ張っています。
経済の好循環を実現するには、
企業収益の改善と持続的な賃上げを両立しなければいけません。
今日夕方、およそ9カ月ぶりに開催された
「経済の好循環実現に向けた政労使会議」の席上、
安倍晋三首相が「年功序列の賃金体系を見直し、
労働生産性に見合った賃金体系に移行することが大切」と
強調したのは、そのあたりの事情を示しています。
加えて、日立のようなグローバル企業の場合、
世界の強豪企業と競争するためには、
海外で優秀な人材の確保が欠かせない。
グローバルに人材を確保するには、
賃金制度のグローバルスタンダード化が不可欠です。
もっとも、脱・年功序列をスムーズに実現するのは、
それほど容易なことではありません。
実際、1990年代後半以降、多くの企業が成果主義を導入しましたが、
公平な評価手法を確立することのむずかしさから、
従来型の賃金体系に戻す企業が少なからずありましたよね。
しかしながら、グローバルビジネスなくして成長が難しくなっている以上、
こうした退行は許されません。
これまでの失敗を教訓としてしっかりと生かし、
グローバルな賃金制度の導入を進めることが求められるでしょうね。