製造業の知恵やノウハウは、農業が抱える問題の解決につながります。
パナソニックは、農業の何を変えたのでしょうか。
「農業って本来、楽しいものですよね。でも、儲からなければ楽しくない。
儲かる農業を楽しみながらやっていただければと思うんですね」
と、パナソニックエコソリューションズ社 事業開発センター 新事業企画グループ
アグリエンジニアリング事業化プロジェクト 主幹の谷澤孝欣さんはいいます。
儲かる農業には、農作物の安定生産と作業の効率化が必須です。
では、楽しい農業には何が必要か。
「生産者がこだわりたいと思う部分に時間をかけられることじゃないかと思います」
と、谷澤さんは語ります。
パナソニックエコソリューションズ社が開発した
「パッシブハウス型農業プラント」は、
環境制御型ハウスの導入により、
年間を通じた安定生産と大幅な省人化を実現。
これまでの単純作業的な部分をシステムに任せれば、
生産者は、野菜づくりの根幹ともいえる土づくりなど、
こだわりの部分に思う存分、時間を割けるというわけです。
「プロジェクトのスタートは、2010年にさかのぼります」
というのは、プロジェクトリーダーの北堂真子さんです。
ご存知のように、パナソニックは閉鎖型施設といわれる最先端の植物工場の開発も
進めていますが、この「パッシブハウス型農業プラント」は、
あえて一般的な農業資材を使っているところに特徴があります。
「ハイテクで開発するのは、ある意味で簡単だといえます。
ところが、ハイテクを使えば、コストが上がってしまいます。
既存の資材を使って、いかに価値を上げるか。それには、相当苦労しました」
と、谷澤さんは語ります。
一般的な農業資材を使いながらも、
農作物にとって最適なプラントを実現できるのは、
環境制御システムとエンジニアリング技術が駆使されているからです。
そのカギは、生育環境の“上限”を見つけることにありました。
例えば、ほうれん草は栽培時、何℃まで耐えられるのか。
谷澤さんは、実験をしました。
まず、ほうれん草をチャンバーに入れて栽培し、
正常に生育するための“上限”を見つけました。
次に、どの設備を使えば、その範囲を達成できるかを絞り込んでいきました。
もともと谷澤さんは、マッサージチェアの開発者でした。
制御技術は、お手のものです。
「マッサージチェアは、モーターで機械を動かし、ポンプのエアで揉む構造です。
パッシブハウス農業プラントは、モーターでカーテンを動かし、
ポンプで水を撒く構造です。まるで、一緒なんですね」
と、谷澤さんは説明します。
製造業の知恵が、農業を変えていくことは間違いありません。
農業と製造業の連携がもたらす意味は、小さくないといえそうです。