今日は、トヨタの決算の上方修正に関する話の続きを書こうと思う。
今週、「トヨタ、上方修正のウラのウラ」で述べたように、
このまま円安が進むと、トヨタの営業利益は限りなく3兆円に達しかねません。
3兆円という数字は、確かにとてつもない額です。
ちなみに、昨年のサムスン電子の営業利益は、3兆6000億円でした。
その主要な収益源は、断るまでもなく、スマホです。
ところが、スマホ事業の収益は、中国メーカーとの競争激化によって、
今年1兆円以上、減ると見られ、最終的に2兆1000億円から2兆5000億円に
ダウンすると予想されています。
そうなると、トヨタはモノづくりで世界一の稼ぎ頭になります。
問題は、利益分配をめぐって、儲け過ぎではないかなどと、
さまざまな議論が巻き起こる可能性があることです。
トヨタにしてみれば、巨額の営業利益は、円安効果が大きいだけに、
俗にいえば、“大盤振る舞い”をするわけにはいきません。
いつ円安から円高に変わるかもしれないからです。
もっといえば、巨額の利益は、必ずしも実力によるものだけではありません。
そうだとすればなおのこと、そして、世論を考えれば、内部留保するわけにもいかない。
何らかの社会還元が求められます。
では、トヨタは、利益分配をどう考えるのでしょうか。
一部で報じられたように、14年度下期の調達において、
取引先部品メーカーに対して、部品価格引き下げを見送りました。
年2回行われる部品価格改定交渉の場で、トヨタはこのところ、
一律に1%程度の引き下げを求めてきました。
トヨタのモノづくりにおける強さの源泉は、この原価低減活動にあります。
それだけに、大変な決断といっていい……。
実際、トヨタは部品メーカーと一体となって、現場で改善活動を行ってきました。
まさに、トヨタ生産方式の核の部分といえます。
はるか昔の話ですが、トヨタは乾いたタオルを絞る……といわれたものです。
今日では、原価低減活動の成果は、トヨタが一人占めするのではなく、
何年間かは、トヨタとサプライヤーの間で成果を半々に分け合うのが
ルールになっています。
トヨタが今回、部品価格引き下げを見送るのは、
円安による史上最高益が背景にあるのは、間違いありません。
なぜなら、第2次、第3次などの中小の部品メーカーは、トヨタとは正反対で、
円安によって原材料の高騰、電気料金の値上げに苦しみ、経営の悪化が避けられない。
そこで、円安による好業績の恩恵の一環として、引き下げを見送ったといえます。
つまり、利益還元です。
部品価格の引き下げを求めないことで、トヨタとサプライヤーの
団結力が強まるのは間違いありません。
反面、トヨタの金看板である部品メーカーと一体となった原価低減活動に
ブレーキがかからないかという心配があります。
トヨタの原価低減力は、年間3500億円といわれてきました。
一時的な部品価格の引き下げによって、原価低減力が落ちるとは、
まあ、考えられないと思いますが……。
当然、利益還元は、来年の春闘でもテーマになるでしょう。
ただ、大幅に人件費が上がれば、コスト競争力に影響します。
いずれにしろ、トヨタはむずかしい判断を迫られることでしょう。