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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

日本のサービス業はデフレから何を学んだか

日本のサービス業が、
いまや世界で引く手あまたです。
なぜでしょうか。

例えば、飲食業の急先鋒は牛丼チェーンの吉野家や、
熊本県のラーメンチェーンの味千ラーメン。
小売業をみると、百貨店では三越伊勢丹ホールディングス、
コンビニではセブンイレブンやファミリーマート、
総合スーパーではイオンがアジアを中心に海外店舗を拡大しています。
また、旅行業ではHIS、それからホテルでは
星野リゾートがグローバル展開を進めていますよね。

一昔前、日本のサービス業は、
生産性の低さが指摘されました。
小売り業や飲食業、宿泊業の生産性は軒並みそうで、
米国の半分以下だといわれたものです。

ところが、今日、日本のサービス業が
アジアで成功をおさめるケースが目立ってきました。

私は、これは「デフレ」の“成果”ではないかと思います。
厳しいデフレ環境の下で、
サービス産業は生産性向上に向け、徹底的に取り組みました。
とりわけ、力を入れたのは、日本が得意とするカイゼンです。
現場のカイゼン力を鍛え、問題解決力を高めました。
そして、その努力が、日本のサービス業を鍛えたんですね。
その結果が、国際競争力の強化につながったのです。
「デフレ」といえば、デメリットばかりが指摘されますが、
デフレは日本企業を鍛え、足腰を強くしたのです。

私は、以前“ミスター牛丼”こと吉野家前社長の安部修仁さんに
インタビューしました。
当時、安部さんは、販売価格を3割下げても、
利益の出る仕組みづくりを進めていました。
作業工程のムダを省いて総作業時間数を短縮するために、
キッチンのレイアウトや清掃作業のやり方に至るまで、
あらゆる作業をゼロベースで見直しました。

「私の理想は、一人で作業するときは、
右足を軸に360度ターンしたら全部完結することです。
ただ、それでは3人で作業するときに狭すぎるので、
コールドテーブルを立体的に収納できるようにするなど、
厨房を可動式にしたんです」

それは、まるで製造業がタクトタイム(標準作業時間)を
“1秒”短縮することにこだわるのと同じだと思いましたね。
デフレで追いこまれたサービス業は、
“1秒”ならぬ“1歩”をなくすことに執念を燃やした。
その1歩1歩の積み重ねが、
いまの強いサービス業をつくったのは間違いありません。

いま、日本のサービス業がアジアで競争力を発揮しているのは、
デフレから多くを学んだからだと思います。
そう考えると、デフレも捨てたもんじゃありませんよね。
ピンチはチャンスといいますが、
人間、苦境に立たされると、いろんな知恵が出てくるものですな。
まあ、松下幸之助さん流にいえば、「好況よし、不況またよし」ですね。

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