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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

パナはなぜ、”紙”の社内報を復活させたか

私のような“活字人間”にとってはうれしいニュースです。
パナソニックが、今月、紙媒体の社内報を2年ぶりに復活させたというのです。
なぜでしょうか。その背景について考えてみたいと思います。

そもそも、パナソニックが紙媒体の社内報を廃止し、
イントラネットに一本化したのは、2012年12月です。
それまでは、読みもの記事は紙媒体に掲載し、
社内のニュース記事はイントラネットで配信するなど、
記事によって媒体を使い分けていましたが、
紙を廃止し、すべて電子化したわけですね。

当時のパナソニックは、2年連続の巨額赤字に苦しんでおり、
12年6月に社長に就任した津賀一宏さんの構造改革が緒についたばかりでした。
「パナソニックは負け組といわざるをえない」「普通の会社ではない」と
津賀さんが社内に向かってゲキを飛ばしていたころです。
そのため、社内報の電子化は、
印刷や搬送・保管コストなどの経費削減の一環としての取り組みで、
なかばネガティブなイメージで捉えられましたね。

もとより、電子化には、さまざまなメリットがあります。
例えば、グローバル化によって増加した海外拠点に、記事を同時配信する。
社員の国籍の多様化に合わせて、多言語対応を進める。
それから、ニュースや情報に対して社員がコメントを寄せるなど、
双方向コミュニケーションを行えるようになります。
これらは電子化の大きなメリットですわね。

では、なぜ、いまになって、
パナソニックは、紙媒体を復活させることにしたのでしょうか。

構造改革が一段落し、黒字化の目途がついたことで
紙媒体を復活させる余裕が出てきたというのも背景にあるでしょう。
ただ、それより、なにより、
パナソニックが掲げる中期経営計画「CV2015」の実現、
ひいては、新たな成長ステージに向け、社員の一体感を醸成するために、
紙媒体の復活に踏み切ったのではないでしょうか。
2018年の創業100周年に向けて、
創業者の理念を軸に、グループの一体感を高める狙いがあるのではないか。

というのは、成長に向けて、社員の意識や価値観を変革し、
挑戦する組織風土を醸成するには、
理念やビジョンを繰り返し、繰り返し、伝え続けるほかありません。
この点、紙媒体は、そのための絶好のツールになります。
理由は単純で、手元において何度でも読み返すことができるからですよね。

ネットは、情報を検索したり、
新着ニュースを読んだりする分には便利ですが、
社内報が配信されても、必ずしもパソコンを開いてみるとは限らない。
それに、ウェブ上にいろんなニュースが並んでいると、
どうしても興味や関心のある記事しか読まない。
こうした点を考えると、依然として、紙媒体には、
伝達するという意味で、底力的なパワーがあります。

また、“活字人間”の立場から勝手にいわせてもらうと、
紙媒体にはある種の魔力があると思いますよね。
紙の質感やレイアウトの妙なのでしょうが、
同じ情報を得るのでも、液晶モニター上で読むのとは全く違う。
紙の匂いや厚み、ページをめくる質感が云々というとちょっとアナクロですけど、
いってみれば文字以外の部分にこそ、
つくり手のメッセージや思いがにじみ出るのではないでしょうか。
それは社内報にもあてはまることだと思います。

パナソニックは、日本語と英語版の紙媒体の社内報をつくって
全世界の拠点に配布するとともに、
海外拠点のイントラネットに英語版の社内報のPDFを掲載します。
紙媒体も電子メディアも、それぞれのメリットを生かしながら、
併用するというのは、納得できるところです。
それにしても、今回、あえて廃止した紙媒体を復活させたところに、
パナソニックの“団結”への強い思いを感じます。

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