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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

日産・志賀さんの語る、カルロス・ゴーンさんの実像

今日も先週に引き続き、日産自動車 代表取締役副会長の
志賀俊之さんの早稲田大学大隈講堂での講演について書きます。

ご存知のように、志賀さんは、
日産代表取締役社長兼CEOのカルロス・ゴーンさんの“右腕”“大番頭”として、
同社のV字復活とその後の成長を支えてきました。

ルノーの副社長を務めていたゴーンさんと志賀さんが出会ったのは、
日産が約2兆円の有利子負債を抱え、深刻な経営危機に陥っていた1998年です。
志賀さんは、99年から企画室長兼アライアンス推進室長として、
日産リバイバルプランの立案・実行に尽力したほか、
2005年からは最高執行責任者(COO)を務めるなど、
名実ともに日産の日本人トップとして、長年にわたって“ゴーン革命”を推進してきました。
ゴーンさん&志賀さんコンビはいまや、ホンダの本田宗一郎さん&藤沢武夫さん、
ソニーの井深大さん&盛田昭夫さんに比肩する、名コンビといっていいでしょう。

指摘するまでもなく、ゴーンさんは、
1985年にブラジル・ミシュランの社長に就任以来、
およそ30年にわたって経営を生業としてきた「プロの経営者」です。
米『フォーチュン』誌が発表する世界の企業売上高ランキング
「フォーチュン・グローバル500」に名を連ねる企業のうち、
日産とルノー、すなわち複数の企業のCEOを同時に務めるのは、
ゴーンさんが史上初にして唯一です。
ゼロ年代を代表する、世界最強の経営者の一人といっても過言ではないでしょう。
側近中の側近である志賀さんの目には、ゴーンさんはどのように映るのでしょうか。
講演会の席上、志賀さんは次のように語りました。

「一言でいうと、経営者として本当のプロフェッショナルだなと。
ゴーンさんは、プロフェッショナルとして、つねに冷静な経営判断を下します。
感情的に反応するとか、激高するとか、そういうことは一切ありません。
日本の経営者は、厳しい判断が求められる場面で、
人間のヒューマニズムみたいなもの、
いってみれば人としての優しさなどに流されてしまいがちです。
その結果、やめるべき事業をやめられず、赤字を垂れ流し続けるなど、
より不幸な事態を招いてしまうケースが少なくありませんよね。

ゴーンさんは、公私のちがいをしっかりと弁えています。
つまり、経営者としての自分の判断と、
人間としての個人的な判断をきっちりと分けているんです。
野球のイチローや、サッカーの本田も同じだと思いますが、
その道のプロフェショナルとして仕事をするには、
ものすごく高いプロ意識が絶対に欠かせないということです」

もっとも、ゴーンさんが10数年にもわたって、
日産の躍進をリードし続けてこれたのは、プロ意識だけが理由ではないでしょう。
企業が持続的に成長するには、社員のモチベーションを高い状態で維持しなければいけない。
危機意識を高めるだけでなく、「オレがやるんだ」と、
社員にその気になってもらわなくてはいけません。
それには、経営者の人間的な魅力がモノをいうケースが少なくないはずです。

「仕事を離れたときのゴーンさんは、本当に親しみやすい、タダのおじさんです。
お昼を一緒に食べるときには、本当にツマラナイ話をしていますよ。
マスコミには経営者の一面しか出ませんから、怖い人とか、厳しい人とか、
そういう印象で受け取られがちですが、
人間としての優しさ、暖かさを兼ね備えているのはいうまでもありません」

と、志賀さんが語るのを聞いて、2011年3月の出来事が頭に浮かびました。
東日本大震災の発生から約2週間後の3月29日、
ゴーンさんは、復旧作業中の福島県いわき工場を訪れます。
現場の社員の前に立ち、「工場撤退は全く考えていない」
「4月中旬にも一部を稼働できる状態にし、4月下旬までには全面的に復旧させたい」
と語った。ゴーンさんの言葉が、現場の社員はもとより、
地域の人々をいかに元気づけたかは、想像に難くありませんな。

原発事故など、震災後の混乱が冷めやらぬなかで、
ゴーンさんは、なぜ、これほど大胆な行動をとれたのか。
経営者としての判断力はさることながら、人間力がなせる業ではないでしょうか。
そんじょそこらの日本人経営者よりも、ひょっとすると、
ゴーンさんのほうが日本人の心の機微をつかんでいるのかもしれません。
「コストカッター」とか「剛腕」と決めつけるまえに、
人間としてのゴーンさんに学ぶべきことは少なくないといえますね。

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